内野再転向で「すごく不安」 看板選手のMLB移籍で抜擢も…1年で撤回→名手誕生へ

ロッテ退団の荻野貴司、プロ入り後の守備を回顧
名手にも紆余曲折があった。今季限りでロッテを退団した荻野貴司外野手は、コーチ就任の打診を断り、現役続行を目指している。ロッテ一筋で16年間プレーし、10月7日に退団を発表。「もう少し現役をやりたい」と移籍先を求めて前を向く。プロ通算1146試合に出場して1143安打、260盗塁、打率.283を記録し、2019年と2021年にはゴールデングラブ賞を受賞するなど攻守にチームを支えてきたが、守備では大きな苦労があったという。
郡山高、関西学院大では遊撃手として活躍したものの「内野の時は送球に不安があって、守備には苦手意識がありました」と回顧する。トヨタ自動車1年目に外野手に転向。ドラフト1位で入団したプロ1年目の2010年も外野でレギュラーに定着したが、遊撃手・西岡剛のメジャー挑戦に伴い、2年目は遊撃手にコンバートされた。
「大学まで一応ショートを守っていたので、(首脳陣から)『やってくれるか』と言われてやりました。でも凄く不安でしたね。『いや、これ、できないなぁ』と思いながらやっていたんです。案の定、なかなかうまくいかなかった。ちょうど右膝も怪我をして、手術をしたので、また次の年から外野に戻りました」
遊撃挑戦は1年で撤回。3年目から再び外野の守備に就いた。俊足を生かした守備範囲は広いイメージがあるが「守備自体はそんなにうまくなかったんです。大塚さんに鍛えてもらいました」という。始まったのは、大塚明外野守備走塁コーチとの特訓の日々だった。

本拠地の独特の風にも苦戦「難しさがありました」
特に苦手意識が強かったのが打球判断。「どこに打球が落ちるかが分からずに追いかけていたんです。『どこだろ、どこだろ』という感じで追いかけているので、不安だから動きが遅くなるんですよ」。ノックではまず打球から1度目を切り、落下点まで一直線に走る。そこで振り返って捕球する練習を繰り返した。
本拠地のZOZOマリンスタジアムは海からの強い風が吹くことが多い。時には風速15メートル以上になることもある。強さだけでなく、風向きも日によって異なる。「外野をやったのはトヨタ自動車の時からなので経験が浅かったんです。マリンの独特の風は難しさがありました」。飛球を追うのは内野も外野も難しい。野手泣かせの球場が苦戦の一因だった。
ひたすら大塚コーチのノックで反復練習。最初は大きかった落下点と自身の感覚のズレが少しずつ解消されていったという。「この打球だったら、この辺りに落ちるというイメージがちゃんと分かるようになってくると自信もつく。打球までも早く追いつけるようになるし、余裕も出てくるんです。そういう感覚が、だんだん身についてきました」。
初めて規定打席に到達した2019年は守備でも活躍して初のゴールデングラブ賞受賞。初めて全試合に出た2021年は失策0で2度目の受賞を果たした。「タイトルを獲れて自信がつきましたね。大塚さんと練習してきたことが間違いではなかったと思えました。それまで悩みが凄くあったので、素直にうれしかったです」。
努力の積み重ねが今の支えに。悩み、苦しんでたどり着いた境地。新天地を求める現在では、大きな武器の1つとなっている。
(尾辻剛 / Go Otsuji)