当たってないフリで阪神監督が激怒 血まみれの足…“真逆のアピール”が起こした悲劇

星野監督が初の退場…呼び水になった相手捕手への“攻撃”
広島で正捕手として活躍した達川光男氏はレギュラー定着以降、毎シーズンのように何かしらで話題になった。プロ10年目の1987年は、中日戦で乱闘劇の伏線プレー、巨人戦では前代未聞のカウント4ボール2ストライクからの本塁打を“演出”した。11年目(1988年)は勝負強い打撃でセ・リーグ得点圏打率1位になり、13年目(1990年)は専売特許の死球アピールとは正反対の、当たったのに当たっていないふりをして敵将を怒らせたこともあった。
1987年5月2日の広島-中日戦(広島)は中日・星野仙一監督が現役時代も含めて初めて退場処分を受けた試合だった。6回に中日・川又米利内野手が二盗を試みた際、広島・正田耕三内野手からみぞおち付近にタッチされたことに激高。両軍ナインが飛び出しての乱闘劇となり、キックなどを繰り出すなど大暴れした闘将と広島・伊勢孝夫外野守備走塁コーチが退場となったが、この騒ぎの伏線となるプレーをしたのが達川氏だった。
それより前のプレーで、走者の中日・中尾孝義捕手が本塁に突入する際に広島捕手の達川氏に体当たりで生還した直後だ。ボール入りのキャッチャーミットで中尾の顔面を“殴打”でお返しした。この時も両軍で小競り合いが起き、その後の川又-正田のバトルで完全に火がついた形だった。川又氏も「中尾さんが達川さんに顔面にタッチされ、その流れで僕もやられたからいっちゃったみたいな感じだった」と証言する。結果的とはいえ、達川氏は星野監督初退場を“誘発”した選手でもあったわけだ。
前代未聞の4ボール2ストライクからの本塁打は1987年10月18日の巨人-広島戦(後楽園)で巨人・吉村禎章外野手が放った。広島は白武佳久投手と達川氏のバッテリー。フルカウントからの7球目がボールになった時点で四球だったが、カウント2-2の時に1ボール2ストライクと間違ったカウントを確定させて進行していたため、8球目が発生し、それが何と本塁打になってしまったのだ。
白武氏は「僕もフォアボールってわかっていました。でも、もう1回勝負できるぞと思って投げたら……。ラッキーと思ったら、アンラッキーになりました」と話しているが、気持ちは達川氏も同じ。「フォアボールなのにラッキー、ラッキーと思っていた。(あと1本で30本塁打の)吉村がホームランを打ちたいのはわかっていたし、打たせてたまるかと外のスライダー。それをポコーンとレフト(スタンド)に打たれてしまったんですよね」と振り返った。
翌1988年から東京ドームが開場。この試合は後楽園球場で行われたセ・リーグ最後の公式戦(NPB公式戦の最後は10月30日の巨人-西武日本シリーズ第5戦)だった。「吉村が飛び跳ねてすごく喜んでいたのも覚えている。まぁ消化ゲームだったし、試合にも(5-2で)勝って、大勢には影響はなかったですけどね」とは言うものの、“あり得ない一発被弾”もまた、達川氏にとっては印象に残る出来事になっている。
「当たった、当たった」を“回避”も…阪神・中村監督から指摘「当たってるだろうが」
11年目の1988年は捕手として看板のインサイドワークだけでなく、打撃力も見逃せない。122試合に出場して打率.261、6本塁打、38打点の成績だったが、特筆すべきは得点圏打率で、リーグトップの.356をたたき出した。「(中日内野手の)落合(博満)さんとか(巨人内野手の)篠塚(利夫)らがいた中で、1位ですからね。私は生涯打率が2割4分6厘だけど、結構、勝負強かったんですよ」と笑みを浮かべた。
珍プレーでおなじみになった「当たった、当たった」の死球アピールの逆バージョンを見せたのはプロ13年目、1990年5月24日の阪神戦(広島)だ。「1死二、三塁で(打席に入って阪神・猪俣隆投手の投じた球が)足に当たって『痛っ』って思ったら(阪神の)キャッチャーが(当たってそれたボールを)一生懸命追っていた。(その間に三塁走者が生還し)これはワイルドピッチでいけるんじゃないかと思ったんです」。いつものアクションとは真逆の“当たっていないふり”を演じたのだ。
「そしたら(阪神監督の)中村(勝広)さんが『当たっているだろうが、デッドボールじゃないか』ってものすごい怒って……」。阪神の抗議を受けて審判団が協議した結果、死球と判定された。「1死満塁で再開するんだけど、もう足が痛くてねぇ。足を引きずりながら一塁ベースについてスパイクを脱いだら(足の親指の)爪が割れて血まみれだった」。代走を出されてベンチに退いたが「当たって相手から『当たっただろ』って言われたのは初めてでしたね」と苦笑しきりだ。
捕手としての実力だけでなく、面白キャラクターとしても大人気。この年(1990年)の8月28日の中日戦(ナゴヤ球場)では送りバントを処理して一塁へ送球する際に左目からコンタクトレンズが外れてグラウンドに落ち、試合を中断して、チームメートも本塁付近に集まって達川氏のレンズ探しをする事態に。これまた珍プレー番組で何度も取り上げられた有名シーンだが、何かを起こすのが、達川氏の魅力のひとつのようにもなっていった。
(山口真司 / Shinji Yamaguchi)