突然届いた“書面”も…戦力外に驚かぬ妻 30歳で岐路、坂本勇人から受け取った金言

トライアウトに参加した西武・松原聖弥【写真:小林靖】
トライアウトに参加した西武・松原聖弥【写真:小林靖】

西武から戦力外を受けた松原はトライアウトに出場

 育成から支配下を勝ち取り、1軍の舞台で存在感を示してきた30歳は、キャリアの岐路に立たされている。今オフ、西武から戦力外通告を受けた松原聖弥外野手は、厳しい現実と向き合いながらも、周囲の声に支えられ、再起を期して合同トライアウトの舞台に立つ決断を下した。

 明星大から2016年育成ドラフト5位で巨人に入団し、2018年7月に支配下登録を掴んだ。2021年には135試合に出場したが、その後は外国人選手の加入もあり出場機会を減らし、昨年6月に若林楽人外野手とのトレードで西武へ移籍。飛躍を目指したが、思うような結果を残すことができず、今季はわずか8試合の出場にとどまった。

「4月に1軍に呼ばれて、スタートは良かったんですけど、これといった決め手がなく、アピールできない部分がありました。抹消されてからはいつ呼ばれてもいいようにやっていたんですけど、なかなか割って入ることができませんでした」

 西武の外野陣は、今季124試合に出場した西川愛也外野手、ドラフト2位ルーキーの渡部聖弥外野手ら若手が台頭。その中で再昇格の道は険しかった。

「みんな若いですし、結果も出していたので。そんな中でチャンスがあれば、カバーという意味でも1軍に入れればよかったんですけど、力不足でした。本当は去年しっかり結果を残しておけばよかったんですけど、今年は焦る気持ちが大きかったです」

 シーズン終了後に松原のもとに届いたのは「戦力外通告」だった。遅かれ早かれ誰もが経験すること。今年に限らずここ数年、覚悟はしていた。それでも、現実を突きつけられる瞬間は重かった。

「自宅で、時間と球団事務所へ来てくれと書かれた書面を受け取りました。『そうかぁ』という感じでした。自分の家族、妻も驚くことはなかったですね。感じる部分はあったと思います。簡単に他球団から声が掛かる世界じゃないこともわかっていますし、『これからどうしよう』という気持ちがありました」

去就に悩むも…坂本からの言葉「辞めるのは一瞬だから」

 戦力外通告を受け、去就に悩む中で心の支えになったのは、これまで共に戦ってきた先輩たちの言葉だった。「辞めるのは簡単。最後まであがこう」そう思った。

「坂本(勇人)さんは『後悔のないように、辞めるのは一瞬だから』と声を掛けてくれましたし、二岡(智宏元ヘッド兼チーフ打撃コーチ)さんも『野球ができるのは今だけだから』と背中を押してくれました。お世話になった方たちに報告すると、みんなが『続けてほしい』と励ましてくれた。だから、簡単に『辞めよう』という気持ちにはなりませんでした」

 そして11月12日、合同トライアウトの舞台に立つ決断をした。「自分のできることをやるだけ」。そう分かっていても、複雑な心境が胸の奥に渦巻いていた。

「結果がもちろん大事だと思います。これが最後になるのか、まだ次があるのか。不安な気持ちが心のどこかにあります」

 迷いと覚悟が交差する中、それでも前を向いて打席に立った。結果は8打席で2安打2四球1盗塁。育成からキャリアを築いてきた苦労人は、再び這い上がるために前へと進み続ける。

(篠崎有理枝 / Yurie Shinozaki)

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