山崎颯一郎、覚醒の裏に2軍での日々 2日連続の「無死満塁火消し」…違った心理状況

転機は8月初旬からの2軍での再調整中
オリックスの山崎颯一郎投手が、充実した秋季キャンプを終えた。「今年の投げ収めでした」。爽やかな顔で言い残して、投手の控室に向かっていった。キャンプの練習日も残り2日となった11月17日。中日との練習試合で登板はなかったものの、9回にグラウンドのブルペンで行った30球が2025年最後のピッチングだった。短い言葉に、充実感が漂った。
2023年に53試合に登板し、3連覇に貢献して胴上げ投手にもなったが、2024年は「右肩鎖骨の奥と背中側の筋肉の肉離れ」で7試合登板にとどまった。復活をかけた9年目の今季は開幕1軍でスタートしたものの、3試合に登板し2軍落ち。その後も昇格と抹消を繰り返した。
転機は、8月初旬からの2軍での再調整中に訪れた。それまで2軍落ちの際には技術的なことを指摘されていたが、岸田護監督や厚澤和幸投手コーチから「今の投げ方、フォームは絶対に変えるな」との指摘を受け、テーマを提案した。
「ここは絶対に内に入っちゃダメだよとか、絶対に高さを間違っちゃダメだよ、というのをこれまで以上に考えて投げることをテーマにしています。ボールはいいのに、(打者の)得意なところに投げてしまい打たれているのが、すごくもったいないなと思って」
捕手に頼りすぎることなく、打者の反応をみて配球を考えることで捕手のサインの意図も読み取れるようになり、マウンドでも気持ちに余裕が生まれるようになったという。
それが、9月20、21日のソフトバンク戦(みずほPayPayドーム)で生きた。2日連続して8回無死満塁から登板し、ピンチを断った。「いつもは絶対に抑えてやろうとか、三振を取ってやろうとか気合でいってたんですが、打たれたらしょうがないというくらいに冷静になれたんです」とマウンドでの心理状態を振り返った山崎。「バッターがこういう反応をしているからこういう球を投げようとか、ワンバウンドでいこう、ゾーンで勝負しようとか、すごく周りが見えていたんです。これが『考えて投げること』なんだなっていうのが分かったんです。本当にあの試合で変わりました。変えてくれた試合だったんです」。2軍落ちした夏が、自分を変えていた。
11月20日で終わった高知市での秋季キャンプ。昨年はフォームを模索し、連日、就任直後の岸田監督や厚澤コーチの指導を受けた。どこか不安げな表情で過ごしたが、1年後はそれが笑顔に変わった。
「去年のキャンプも僕の中では有意義な時間でした。でも今は、そこじゃない。去年のキャンプとは違う目的で来ているので」。新たに取り組んでいるのはカーブだ。「今シーズン後半、フォークがよくなってきたのですが、粘られたりすることもありました。カーブの精度を高めることができたら、もっとフォークも生きます。ストレートとフォークは同じラインに来ますから、そこから外れるボールというのはデカいと思います」と明かす。
ひと皮剥けたかという問いには「いうても、たかだか2試合なんで。これを年間を通してやらないと。ピンチでは絶対に焦る場面はあるんで、どれだけその状態で臨めるかだと思います」。不安なく迎えるオフの間に、成長することを誓う。
〇北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者一期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。
(北野正樹 / Masaki Kitano)