低迷の大学を立て直しV 就職“斡旋”、スカウティングも…元燕戦士が北の大地で監督になったワケ

福岡ダイエー(現ソフトバンク)とヤクルトなどで活躍した佐藤真一氏【写真:町田利衣】
福岡ダイエー(現ソフトバンク)とヤクルトなどで活躍した佐藤真一氏【写真:町田利衣】

佐藤真一氏は札幌大野球部監督として札幌六大学リーグで今秋優勝に導いた

 札幌六大学野球リーグで今秋、2季ぶり34度目の優勝を飾った札幌大の監督を務めているのが、福岡ダイエー(現ソフトバンク)とヤクルトでプレーし、引退後はヤクルトとオリックスでコーチを務めていた佐藤真一氏だ。2024年から同大でコーチに就任し、昨秋の明治神宮大会後に“昇格”。再建を託されたチームを、60歳の指揮官が厳しくも温かく率いている。

 札幌市豊平区内にキャンパスを構える札幌大。北海道出身の佐藤監督にとっては、実家が近く幼少期に周辺を自転車で走って遊んでいた場所でもある。自身は東海大四高、東海大、北海道拓殖銀行を経て1992年ドラフト4位でダイエー入りしたため通ったことはないが「縁を感じた」という。コーチ就任に際しては高校の同級生がOB会長を務めていたこともあり熱心な誘いを受け、引き受けることを決めた。

「何回か東京まで来てくれて『どうだ、やらないか』と言われてね。そんな経緯があってここに決めました。ただ、来て練習を見たら確かにひどかった。ちょっと練習をしたらすぐ『きつい』と連呼している。(2024年の)春に負けたあとに立て直すために何をするか考えて、とにかく走ったかな」

 自然あふれる土地柄、グラウンドの周りにはたくさんの坂がある。春季リーグが終わり夏にかけて、とことん走り込みをすることを課した。「タイムを切るまで終わらない。本当に坂を見るのが嫌になっただろうね」というほど厳しい練習だったが、大事な基礎が築かれた。秋季リーグでは35季ぶりの優勝。明治神宮大会にも出場し、初戦で敗退したものの「勝つことを経験して部員の意識がちょっと変わったかな」と確かな成長があった。同大会で前監督が退任し、監督の座を受け継いだ。

スカウティング活動に就職“斡旋”も「社会で必要とされる人間にしたい」

 部員たちと接するうえで大切にしているのは、「社会で必要とされる人間にしたい」という思い。「遅刻するとか無断で休むような子は、まず使わない。それは厳しくしている」と語気を強める。一方で「いつも思っているのは、努力する子は使おうということ。必ずいいことが起こると思っているから。こいつで負けたらしゃあないってなるからね」と微笑んだ。

 大学監督としての仕事は、グラウンド上だけではない。スカウティング活動のため、夏の地方予選などもチェック。オリックスでスカウトを務めていた経験も活かして目を光らせる。現在、部員120人ほどのうち道外の部員は1割ほどだが、東北や関東からも徐々に入部者が増えている。「油断したらすぐ弱いチームに戻ると思うので、選手を補強して、そうすればまた選手が集まってくるチームになる」と長期的な展望を明かす。

 さらに就職の“斡旋”もある。プロ野球を目指すわけではないが、野球を続けたい部員たちもいる。「(社会人野球の)練習に参加したい子がいたら監督やマネジャーを紹介したりね。ただいろいろ声をかけるけど、なかなか簡単には入れない。活躍してくれた子はいいところに入れてあげたいと思うけど、そのへんは難しいよね」と頭を悩ませている。

 今後目指すことは2つある。まずは「今までうちからプロ野球選手になったのは1人もいない。うちの野球部に関係している人はみんな思っていることだと思うよ」というプロ野球選手輩出。そしてもうひとつが「もっと全国大会で勝てるチームにしたいね。したいというかすると宣言したので」。豊かな自然と澄んだ空気の中で学生たちの成長を見守る日々。還暦を超えても、生まれ育った北の大地で挑戦を続けている。

(町田利衣 / Rie Machida)

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