法外な土地代要求…元中日投手の肩書きが「悪い方向に」 2年間無収入の先に掴んだ転身

元中日の三ツ間卓也さん…イチゴ農家転身までの厳しい道のり
お客さんからの「美味しかった」に、つい頬が緩む。柔和になった顔つきに、元プロ野球選手の面影は感じられない。2021年限りで引退した元中日投手の三ツ間卓也さんは現在、イチゴ農家を営むという異色の経歴をたどっている。生産だけでなく加工品の販売にも挑戦し、事業は軌道に乗りつつあるが、ここまでたどり着くには厳しい道のりがあった。
11月上旬、週末でにぎわう横浜市の百貨店・横浜高島屋で、三ツ間さんは慌ただしく動き回っていた。来年1月20日まで期間限定で、ポップアップストアを出店。イチゴを使った特製のドリンクなどを販売する。足を止めた買い物客からは「三ツ間って、中日の?」との声も。珍しい苗字と積極的なSNS発信で、徐々に認知は広がっている。
独立リーグ・ルートインBCリーグの武蔵ヒートベアーズ(現・埼玉武蔵ヒートベアーズ)から2015年の育成ドラフト3位で中日に入団。1年目終了後に支配下選手を勝ち取ると、2年目の2017年には主にリリーフで35試合に登板した。しかし、怪我の影響もあり徐々に登板機会を減らし、2021年のオフに戦力外通告を受けた。
引退後は「安定した仕事に」との思いから、不動産業に転職を考えていた。しかし、妻から「あなたは大変な立場でも頑張ることができる人。好きなことを仕事にしてほしい。いつも没頭していたイチゴ農家でもどう?」と提案された。コロナ禍の2020年にマンションのベランダで家庭菜園を始め、当時1歳半の長男が最も喜んで頬張ったのがイチゴ。とはいえ単なる趣味。思わぬ提案に戸惑ったが、「私も共働きで頑張るから……」と、後押しを受けて一念発起した。
2年間無収入も…家族の存在が支え「明るく振舞ってくれた」
専門学校で知識を身につけ、農家に赴いて修行の日々。融資を受けるため「事業計画書」を作成し、銀行に何度も通った。独立に向けて準備を進める中で、最も苦労したのは栽培する土地の確保だった。
「なかなか土地を貸していただけなかったですね。元々が野球選手だったことが悪い方向にいってしまって……。『お金を持っているだろう』と、土地代を何倍、何十倍に吹っかけられたりもしました」
引退してからの2年間、無収入。プロ時代の貯蓄を崩しながらの生活でも、家族の存在に助けられた。「妻が明るく振舞ってくれました。土地探しに苦労をしていた時も、『大丈夫だよ!』って励ましてもらっていました」。夫婦二人三脚で支えあった。
2024年1月に横浜市内で「三ツ間農園」を開業。農園でイチゴ狩りを運営しながら、イチゴパフェやイチゴミルクなどの商品開発にも精を出す。「基本的にイチゴ農家の収入は1月から5月までしかない。夏も苗を育てて、人件費もかかるのに、収入がなくなってしまうのは苦しいので、少しでも売上につなげられればいいなと思い始めました」。
まだまだ道半ば。いつか、自分の栽培したイチゴを思い出の球場でも販売したい。「バンテリンドームだったり、横浜スタジアムで販売できたらうれしいですね。自分の農場をたくさんの人に知ってもらい、野球界にも恩返ししていきたいです」。一球から一粒に変わっても、入魂する人生に変わりはない。
◆三ツ間卓也さんのインスタグラム
https://www.instagram.com/mitsuma_takuya_43_15/
(神吉孝昌 / Takamasa Kanki)