中日・井端弘和の退団にみるNPBとMLBの違い

長期契約を結ぶことで生じるリスク

 もっとも、これは一般的に若手選手に多い事態で、米国では井端のように実績がある選手は無条件でFAとなっている。球団が功労者にダウン提示を行い、無駄な摩擦が起こることはない。もし戦力外とする場合でも、FAとなった後に再契約のオファーを出さなければいいだけなのだ。

 2009年の松井秀喜がいい例だろう。4年契約の最終年にワールドシリーズMVPに輝いた松井だったが、ヤンキースは再契約のオファーを出さなかった。本人は「仕方がない」と早々に切り替え、FA選手としてエンゼルスと契約。次の道へと進んだ。

 FAとなった選手が減俸を受け入れて残留する例もあるが、どちらかというと米国では「0か100か」という考え方が強い。井端のような大減俸も、球団側にとっては年俸調停などでマイナスに働くため、あらかじめ代理人と話してFAとするケースが多くみられる。また、FAでオファーなしとなれば「0円提示」とも言えるかもしれないが、選手にとっても、FAでの退団はそれほど大きな決断ではない。しかも、松井のように引く手あまただったならば、いいオファーをくれたチームに移籍することは、むしろプラスに捉えられる。井端が新天地を求めたことと、結果としては大きな違いはないかもしれないが、その過程や印象が大きく異なる。

 当然、メジャーにも問題はある。近年は、大型契約を結んだ選手が「不良債権化」することが少なくないのだ。代表的な例でいえば、ヤンキースのアレックス・ロドリゲスは2017年まで10年総額2億7500万ドル(約273億円)の契約を結んでいる。ただ、パフォーマンスの低下は顕著で、今年は薬物問題でも世間を騒がせた。来季は全試合出場停止となることが濃厚だ。

 中日が井端にしたように、ヤンキースも大減俸を提示したいところだが、すでに各年の年俸は決まっている。しかも、契約期間が満了するまではFAにもならない。当初はAロッドがFAになって他球団に取られないようにと結んだ大型契約が、完全に裏目に出ている。年俸に見合うだけの活躍を残せない選手を保有しなければいけないのは、球団にとっては痛恨だろう。日本にも複数年契約でこうなる例はあるが、ここまでの“大損害”は滅多になく、FA制度の違いが生んだ悲劇だと言える。

 契約社会の米国の方がドライだということも事実で、メジャーのやり方が、終身雇用が基本の日本に合うとは限らない。一長一短ではあるが、今回の「井端騒動」からは日米の考え方の違いが鮮明に見えてくる。

【了】

フルカウント編集部●文 text by Full-Count

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