それでも選手はついていく 落合博満GMの非情さの裏側にあるもの

選手のために泣ける監督

 冷酷な面はプロとしての高い意識の表れ。だが、落合氏も一人の人間であり、野球人でもある。

 2004年の10月の出来事だった。当時、中日を率いた落合氏はこの年で引退することを決意した同年の開幕投手・川崎憲次郎と話をした。指揮官は川崎に優しく語りかけたという。「明日の引退試合はチケットを俺が手配するから、呼べる人をみんな呼べ」と熱い言葉で最後の花道を用意することを約束。しかも、相手は古巣のヤクルト戦。これ以上ない舞台を整えた。登板した川崎は両軍から胴上げされ、感極まった。本人はその試合を一生、忘れることはないだろう。その姿からは感謝の思いがあふれていた。

 さらに印象的だったのは、涙を浮かべていた落合監督の姿だ。一人の選手の引退で涙を流す監督の姿に、川崎本人だけでなく、家族や親類なども心を打たれた様子だった。あの瞬間、落合氏が誰よりも選手を思う指揮官だということを周囲も再認識したことだろう。

 この場面が象徴するように、落合氏は選手のために泣ける監督だった。2006年のリーグ優勝のヒーローインタビュー時も、「すいません、涙もろいもんですから」と大観衆の前で声を震わせた。

「選手たちはよく泣かせてくれる。絶対泣かないと思ったのに、一番最初に泣いたのは私でした」

 落合氏はインタビューで選手への愛と思いの詰まった言葉を絞り出すと、最後にこう締めた。

「素晴らしい選手たちに恵まれた。ありがとうとしか言えない」

 今回、肩書きが監督からGMに変わった。だが、年月が流れたからといって、人間が変わるわけではない。落合博満はまたあの歓喜を後進である谷繁監督に味あわせるために、自分なりのやり方で選手たちの士気を上げている。その過程の一つが、今回のコストカットだった。まずは厳しさを植えつけた落合GM。来年は、選手たちに気の緩みのない、強い中日ドラゴンズが帰ってくるに違いない。

【了】

フルカウント編集部●文 text by Full-Count

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