田中将大は海を渡れるか? 新ポスティング制度の締結の遅れが球界に与える余波

誰にとっても円満な結果はない

 一方、楽天側から見るとどうだろうか。チームの編成を考えると、田中がいるといないとでは、戦力が違いすぎる。補強を進める上で、既にリミットは過ぎている。そして、入札額の上限20億円という設定を受け入れられないと考えるのは、企業として当然だろう。

 1か月前にすんなりポスティングが締結されていれば、田中の落札額は1億ドル(約103億円)に達するとの声もあった。締結間近だった「1位と2位の中間の額が旧所属球団に支払われる」というシステムであっても、“儲け”には50億円以上の差があったかもしれないのだ。FAの前に選手を出すポスティングという制度を使うかどうかは、あくまで球団の権利。

 割に合わないと考え、田中を出さないと決断しても、非難されるのは筋違いと言える。楽天としての落としどころは、来オフのポスティング利用か。1年を持ち越しても、確実に上限の入札額は得られるはず。田中がいることで得られる、これから1年の経済効果を考えれば、最も合理的な選択だと言える。

 ただ、話はそれほど単純ではない。田中の気持ちを考えたらどうだろうか。右腕は今季、24勝無敗でリーグ制覇、日本一、胴上げ投手、沢村賞など、ほぼ全てのものを手にした。楽天のある選手は「メジャーに行くべきですよね。来年も日本にいたら、何を目指してやるんですか? もうやることがないでしょう」とエースの胸の内を代弁する。

 本人は正式には来季の希望を表明してない。ただ、今季の活躍を支えたものの1つは、メジャー挑戦への思いだったはず。このタイミングでのメジャー挑戦は、チームメートやファンにとっても「夢」だ。だからこそ、仮に残留が決まった場合、田中はモチベーションを維持できるのか。もしかしたら強靱な精神力を持つ右腕には失礼な心配かもしれないが、不安は残る。選手である以上、負傷する可能性だってゼロではないのだ。

 楽天の立花社長は田中との面談を「(新制度が締結されてから)出来るだけ早く」としている。17日にも本人の意思確認を行い、残留を要請することになるだろう。誰にとっても円満な結果はない。それでも、出来るだけ犠牲の少ない結果が出てほしいと願うのは贅沢だろうか。

【了】

フルカウント編集部●文 text by Full-Count

RECOMMEND

KEYWORD

CATEGORY