マー君の“投球過多”は真実か? 米国の報道に存在する矛盾

1イニング当たりの球数は岩隈よりも少ない

 しかも、メジャーのレギュラーシーズンが162試合と日本よりも18試合多い。短い登板間隔で多くの試合をこなすのだから、年間での先発試合数も増える。実際に、昨季は田中が27試合だったのに対し、バーランダーは34試合と7試合も多かった。さらに、米国は移動も過酷。先発投手が次の登板に向けて現地に先に移動するケースがある上、遠征自体に帯同しないことがある日本とは違い、メジャーではすべての試合で全員がベンチに入る。ただでさえ移動距離が長いにもかかわらず、だ。

 これらの要素を踏まえると、むしろ田中と1試合平均で0.4球の違いしかないバーランダーが心配になってくるほどである。

 また、米スポーツ雑誌のスポーツ・イラストレイテッドも、12月29日付の記事で田中の“投球過多”を指摘している。田中はプロ入り後に1315イニングを投げているが、米国で25歳のシーズンまでにこの投球回に達したのは、1978年のフランク・タナナを最後にいないという。記録がある1961年以降で見ても、3人しかいないそうだ。

 ただ、この数字も鵜呑みには出来ない。なぜなら、米国のデータはメジャーリーグでの登板数で算出されており、マイナーリーグは含まれていないからだ(※田中はプロ入り後、2軍での登板は調整段階での4イニングしかない)。記事では、1961年以降で3人しかいないと書かれているが、例えば、1947年の“早生まれ”のノーラン・ライアンはマイナーを含めると1973年の25歳シーズンまでに1411イニングも投げている。しかも、翌1974年には332回2/3という、年間200イニングが好投手の条件とされる現代では考えられない投球回数を記録。田中よりも遙かに多い投球回を記録し、肩を酷使したはずの右腕は、後に球史に残る名投手となり、剛速球を武器に46歳まで現役生活を全うした。

 さらに言えば、昨季の田中の1イニングあたりの投球数は14.04で、メジャー最少だった岩隈久志の14.12よりも少ない。ダルビッシュが昨年5月16日のタイガース戦でメジャー自己最多の130球を投げて8回で交代したとき、米国では激しい論争が巻き起こり、ワシントン監督は「投げさせすぎ」と厳しく批判された。普段は球数を基準に交代のタイミングなどを指摘する米メディアがイニング数を持ち出して田中の“投球過多”を論じること自体に無理があると考えるのは、少し感情的すぎるだろうか。

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