同じ病気の人に届けたい 巨人の育成・柴田章吾が貫く生き様

自分のことを考えてくれる先輩との出会い

 ストライクが入らないコントロールは、居残り練習、別メニューの練習で磨いた。プロの投手として絶望の淵にまでいったが、土俵際で踏みとどまり、コントロールは改善されてきた。2013年は2軍戦で初登板。勝利投手になった試合もあり、大きな一歩となった。練習は嘘をつかなかった。ピンチに直面した柴田の姿を、陰からコーチやチームスタッフがずっと見ていた。苦しい道程ではあったが、それは必然の結果だったのかもしれない。

 そして今年1月5日。柴田は自主トレーニングで初めて海外(グアム)に向けて出発した。チームの先輩である内海哲也投手、山口鉄也投手といった1軍のトップクラスのピッチャーと一緒に練習している。「練習はしんどいですが、毎日が充実してます」と灼熱の太陽の下、汗を流している。

 昨年まで柴田は有名なプロアスリートが集まる鳥取市のトレーニング研究施設「ワールドウィング」で中日・山本昌投手にアドバイスをもらいながら、トレーニングに励んでいた。今回の海外での自主トレを伝えると、山本は「自分のチームの人とやることもきっとプラスになるよ」と快く、背中を押してくれたという。内海、山口、そして山本……。自分のことを真剣に考えてくれる先輩との出会いに柴田は感謝してもしきれなかった。

 まだ、1軍で活躍するという夢の途中である。それでも期待せずにはいられない。数々の試練を乗り越えて、ここまでやってきた男だ。

「同じ病気の人に元気と勇気を与えるために頑張りたい」

 柴田はそう言い続けてきた。だが、これまでの道程を振り返ってみると、その思いはすでに十分に伝えることができたようにも見える。むしろ、これからは自分のために、そして野球ファンのために、ただ純粋に野球をやってもいいのではないか。

「普通の人のように生活がしたい」と発したあの時の言葉のように、24歳となった今、「宿命」という大きな荷物を降ろしてもいいのかもしれない。そして、一人の野球選手として、1軍のマウンドで躍動する。そんな姿を、仲間も、ファンもきっと待ち望んでいる。

【了】

フルカウント編集部●文 text by Full-Count

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