メジャー復帰まで“身を潜める男” 藤川球児が貫くプロの哲学とは

リハビリは順調に進んでいる

 もちろん、復活までの過程を周囲に知らせることは大切だ。同じ手術を受けることになった人にとっては、またとない参考資料となるだろう。藤川もその意図は理解している。

「でもね、今、過程を明らかにしたところで、その過程をたどった結果が見えていないでしょ。だから、意味がないんです。成功であっても失敗であっても、戦列復帰を果たして結果が残ればいい。その時初めて、たどった過程が意味をなすようになるんです」

 実際には、リハビリは順調に進んでいる。手術後2度のブルペン投球を行っているが(2月28日現在)、自己評価は「まだまだピッチングと呼べるような代物じゃない」。ボシオ投手コーチや首脳陣によれば、スケジュール通りに回復の道をたどっているという。トミー・ジョン手術を受けた投手は、通常復帰まで1年以上を要しており、藤川の場合も例にならって考えれば、6月以降の復帰が順当と言えるだろう。

「まだコイツは起きていないんですよ」

 そう言いながら、自分のロッカーに掲げられた「11・FUJIKAWA」のネームプレートを指差した。

「僕はまだコイツになれていない。コイツが帰ってくるまで、もう少し待ってて下さい。その時、手術から復活までの様子を明らかにしましょうよ」

 本拠地リグレーフィールドに「火の玉ストレート」との異名をとる豪速球が戻ってくるまで、もう少し辛抱していよう。

【了】

佐藤直子●文 text by Naoko Sato

群馬県出身。横浜国立大学教育学部卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーとなり渡米。以来、メジャーリーグを中心に取材活動を続ける。2006年から日刊スポーツ通信員。その他、趣味がこうじてプロレス関連の翻訳にも携わる。翻訳書に「リック・フレアー自伝 トゥー・ビー・ザ・マン」、「ストーンコールド・トゥルース」(ともにエンターブレイン)などがある。

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