メジャー屈指の強打者を憤慨させた記者の一言と、それでもアルバート・プホルスが貫く矜持

『俺は英語にバットで答えるんだ』

puho
プホルスとトラウトの年度別成績

 ここで、プホルスの成績を見てみよう。2001年のデビュー以来、13年間で通算492本塁打、1498打点、打率3割2分1厘を記録。いずれも現役選手では1、2位を争う数字だ。カージナルスでプレーした2001~11年には、MVPを3度受賞。打率3割、30二塁打、30本塁打、100打点を10年連続で記録した、メジャー史上唯一の人物でもある。

 確かに、エンゼルスに移籍した2012年はスロースタートを切ったが、154試合に出場し、30本塁打、105打点、50二塁打で、打率は2割8分5厘。普通の打者なら十分過ぎる成績だ。だが、プホルスのようなスーパースターの場合は、これでも「足りない」と思われてしまう。それまでの11年間で自らハードルを高く設定してしまったがための弊害だ。

 怪我のため出場が99試合に止まった昨季の成績は、本人も申し開きはできないだろう。だが、それでも13シーズンのうち、たった1度くらいは本調子でないシーズンもやってくる。それすらも許されないのは、スーパースターの悲しい運命としか言いようがない。

 まさかの質問に憤慨したプホルスだが、なんやかやと口やかましく反論するのは、彼のやり方ではない。ひと昔前、エンゼルスがプレーオフ出場常連チームだった時、主砲として活躍した同郷の英雄・ブラディミール・ゲレーロの言葉を引き合いに、次のように締めくくっている。

「今、いろいろと反論するつもりはない。でも、かつてゲレーロが残したこんなエピソードを覚えている。英語が話せないと批判されたゲレーロは、こう言ったんだ。『俺は英語にバットで答えるんだ』ってね。俺も批判する人にバットで答えることにするよ。今年は大きな年になる。ま、見ていてくれよ」

 普段は目立つことを嫌って、大口は決して叩かない男が、ここまで言っている。プホルスのやる気は、最高潮まで達しているようだ。

【了】

佐藤直子●文 text by Naoko Sato

群馬県出身。横浜国立大学教育学部卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーとなり渡米。以来、メジャーリーグを中心に取材活動を続ける。2006年から日刊スポーツ通信員。その他、趣味がこうじてプロレス関連の翻訳にも携わる。翻訳書に「リック・フレアー自伝 トゥー・ビー・ザ・マン」、「ストーンコールド・トゥルース」(ともにエンターブレイン)などがある。

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