今もマイナー落ちへの危機感を持ち続ける男 田澤純一が米国で這い上がるために身につけた流儀

マイナー生活で作り上げられた強靱なメンタル

「マイナーには上に上がることを狙う選手がたくさんいるし、自分もそうやって上がってきた。確かに、メジャー昇格はうれしいことだけど、それが全てじゃない。メジャーに定着しなければ意味がない。僕なんかブルペンでは、まだ一番若い部類だから落とされる可能性はあると思うんです。だから、1日でも長くメジャーでプレーできるように、いい投球をしようと必死です」

 だが、危機感を抱いて、自分を追い込みすぎてはピッチング内容が萎縮してしまう。

「危機感を持っているのは、マウンドに上がるまで。マウンドに上がったら、対戦するのは実力のある打者ばっかりですから。そこはもう腹をくくって、思い切って自分の力を試したい。そう思うだけですね」

 マイナー時代に仕込まれた「ストレートで真っ向勝負」の心意気をそのままに、マウンドでは大胆にストライクゾーンを攻めていく。メジャーで生き残り、成長するための投球を試行錯誤する中で、自ずと見えてきた課題もある。

「僕の場合、フォアボールで走者を出すっていうよりも、ストライクになりすぎてヒットを打たれて走者を背負うことの方が多い。そこは、対戦打者との兼ね合いで、対策を練っていければいいと思います」

 社会人野球から一足飛びでアメリカに渡った5年前の初々しさは、もうない。トレーニングを重ねて一回りも二回りも大きくなった身体の中には、マイナーリーグでもみくちゃにされながら動じなくなった強靱な心が宿っている。

「マイナーで教えてもらったことは間違いじゃなかったと思います。辛抱強く育ててくれたチームに感謝して、少しでも貢献できるようにしていきたいです」

 田澤のメジャー人生は始まったばかり。これからどこまで大きく成長するのか、見ていて損はないはずだ。

【了】

佐藤直子●文 text by Naoko Sato

群馬県出身。横浜国立大学教育学部卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーとなり渡米。以来、メジャーリーグを中心に取材活動を続ける。2006年から日刊スポーツ通信員。その他、趣味がこうじてプロレス関連の翻訳にも携わる。翻訳書に「リック・フレアー自伝 トゥー・ビー・ザ・マン」、「ストーンコールド・トゥルース」(ともにエンターブレイン)などがある。

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