1950年以降3人目の「四球>安打」が実現間近 打率だけでは計れない楽天・AJの高い貢献度

絶妙なAJの貢献の形

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AJにとっての「打率上昇」の価値

 それでも2割前半という打率を素直に受け入れがたいファンもいるだろう。

「AJ(アンドリュー・ジョーンズ)の打率が.280くらいあったら最高」

「四球もいいけど、もう少し打撃での確実性が増せば」

 そんな声を耳にすることもある。そこで、今とは違うバランスでアンドリューが活躍した場合を、具体的な数字でシミュレーションした。

 まず、四球の数、安打に占める長打の割合はそのままに「打率を.280まで上げる」という求めに応えるとどうか。

 アンドリューは年間130安打を打つ必要がある。出塁率は.438に、長打率は.534に上がる。これらの成績を生み出した得点の形で表すと約107点分に換算され、現状の約84点から大きく増える。

 楽天の総得点が20点増える活躍と考えればかなりの追加貢献だとわかるが、これは糸井嘉男(オリックス)などキャリアのピークに近い強打者に並ぶ数字だ。アンドリューにMVPレベルの活躍を求めるもので、37歳のベテランには少し荷が重い数字だ。

 四球にはこだわらず、せめて平均打率くらいは残してほしいという「打撃の確実性」への求めに応えるとどうか。

 打率をパ・リーグ平均の.257に引き上げ、四球数も平均に合わせ打席の8.5%程度に減らす。四球は51個、139安打というバランスになるが、出塁率が下がり全体的には現状以下の数字となる。

 最後に、三振を平均レベルの打席数の18%に減らし、現在の三振と四球の比率を守る形で四球も減らす。さらに、三振を回避した打席は.267の割合(アンドリューの打球がフェアグラウンドに落ちるヒットになる確率)でシングルヒットを打つとした場合。大振りをやめてつなぐ打席を少し増やした形だ。打率は上がるが、四球が減った影響がここでも大きく、やはり現状以下だ。

 打率を上げ、今以上の働きを見せるには、四球をできるだけ減らさずにヒットを増やす必要がある。しかし、「強振、強打が四球を引き寄せている」という理論に従うのなら、四球数の維持と、率を上げるような打撃の両立は厳しい。

 今のアンドリューの四球に比重をかけた貢献は、現在持てる能力を発揮する上での、1つの正解なのかもしれない。得点に換算した評価では、内川聖一(ソフトバンク)、中田翔(日本ハム)、中村剛也(西武)と同等の働きと見なす試算もある。

 1973年のオフ、クラレンスを手放した南海はその後低迷する。クラレンス在籍時のリーグ優勝を最後に、長く浮上できないまま球団はダイエーへと譲渡された。長期低迷には様々な理由があるものだが、いつの時代も浮上のカギとなる、外国人選手の獲得方針も理由の1つだろう。

 楽天は2014年をもって星野仙一監督が退任し転換期を迎える。チームの再建を図る次の監督やフロントは、アンドリューのような打者をどう評価するのか。南海のケースと重ね合わせるならば、球団の未来を占う判断のようにも思えてくる。注目したい。

【了】

DELTA・道作・秋山健一郎●文  text by DELTA DOUSAKU AKIYAMA,K.

DELTA プロフィール

DELTA  http://www.deltagraphs.co.jp/
2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える セイバーメトリクス・リポート1~3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『Delta’s Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。最新刊『セイバーメトリクス・リポート3』が4月5日に発売。

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