黒田博樹はなぜ現役引退を考えるのか 衰えを見せない39歳の覚悟とプロ意識

黒田にとって最も重要なのは条件のいい契約をもらうことではない

 39歳でのシーズンで、黒田はその力を改めて証明した。シーズン序盤は本調子ではなかったが、昨年の課題として残った勝負所の終盤戦も安定した投球を続け、11勝9敗、防御率3.71。ケガ人続出のヤンキースで1人だけ開幕から先発ローテーションを守り続け、199イニングを投げきった。4年連続の200イニング登板には1イニングだけ届かなかったが、例年と比べてもほとんど遜色ない数字。黒田がいなければヤンキース投手陣は崩壊していた。

 黒田にとって、登板は苦しいものだという。それは、すべての試合に覚悟を持って臨んでいる者にしか分からない感情かもしれない。ヤンキースの今季最終戦となった9月28日のレッドソックス戦で、黒田は「来季も現役を続けるために、苦しさを乗り越えられるかがポイントになるのか」と質問を受けた。

「それをはね除けるパワーがあるかどうかと、あとはメンタル的にどこまで自分をプッシュしてやっていけるか。そういう部分での判断が難しいと思います。ただ、今年も200(イニング)はいかなかったですけど、そこ(199イニング)までいけたという自信もありますし、色んな部分が判断材料になってくるんじゃないかと思います」

 黒田にとって重要なのは、40歳のシーズンを迎えるにあたって、条件のいい契約をもらうことではない。もちろん、それは今年の結果に対しての評価であり、とても大切なことだ。ただ、本当に重要なのは、契約に見合った結果を残すことだと考えている。それがプロとしての責任だと感じている。

 開幕前に「今年1年は契約した以上、完全燃焼しないといけない。責任があるし、引退について考えるのは、今年終わってからかなと思います」と明かしていた男は、今季を終えて、こう話した。

「来年、40歳になった時の自分の体というのは、まだ自分でも想像できないですし、契約する以上はそれなりの責任をもって契約しないといけないので、難しい部分もあります。ただ、39歳のシーズンで200イニング近く投げられたというのは、自分の中では来年に対しての自信には多少なりともなるとは思います」

 ヤンキースのブライアン・キャッシュマンGMは11月上旬のGM会議で、現役続行か引退かで悩む黒田の決断を待っていることを明かした。ただ、現時点でオファーは出していないようで、現役続行の場合でも移籍の可能性が高まってきたとの見方が出ている。そんな中、古巣のドジャースが今年と同レベルの契約オファーを提示したとの報道もあった。米国内では、広島復帰の可能性も残されていると見られている。

「やっぱりオファーがないと始まらない。野球人としてはオファーがなければ、それはもう退くときだと思います。ただ、オファーがあっても自分なりに色々と考えないといけないこともあります。それは去年以上に、というか例年以上に難しい。年齢がいけばいくほど難しくなってくる」

 シーズン終了後にこう話していた右腕だが、愛着あるドジャースのオファーが事実ならば、どんな決断を下すのか。「自分の中では特別なチーム」と表現するヤンキースが再契約を望んだら、それでも引退という決断を導き出すのか。野球への真摯な思いが、今オフも黒田を悩ませているに違いない。

【了】

フルカウント編集部●文 text by Full-Count

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