守備の名手・大引啓次が考える送球の極意 イップスを克服した過去も告白

球界を代表する守備職人も「イップス」だった

 送球に関して、不安や邪念は今の大引にはない。オリックスに入団してから間もないころは一塁へのショートバウンド送球もあったが、2012年にはパの遊撃手トップの守備率9割8分7厘という高い成績を収めるなど、守備職人になった。そして、FA宣言をする際には、堅実な守備はセールスポイントになった。

 そんな大引にも苦い過去があった。

「僕もスローインで悩んだ時期があった。いわゆるイップスです」

 精神的な原因などから、送球動作に異常を起こし、思い通りのプレーができなくなる「イップス」であったという。プロになってからも「イップス」になる選手は多く、野球人生を断たれることも少なくない。そんな大きな病を克服し、球界屈指のショートストップになっていた。

「(送球は)絶対に悩めば悩むほどドツボにはまる。あそこがどうだとか、肘が下がっているとか気にして、悩んでると余計に変なことになるので、スローイングのアドバイスは一切しなかったです」

 大引は送球難になった時の状況を思い起こしながら、子供たちに極意を力説していた。自分のようにはなってほしくない。たとえなったとしても、捕球と送球を一連の動作として考えることができれば、自然と元通りのスローイングになっていき、克服できることを伝えたかった。

 プロ野球選手でも中学生でも、悩むこと、考えることは同じであり、「もっと野球がうまくなりたい」と向かうゴールも同じなのだ。この日のような触れ合いの場が、日本の野球の底上げにつながっていくことだろう。

【了】

フルカウント編集部●文 text by Full-Count

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