【小島啓民の目】侍ジャパン・小久保監督が受け継ぐ日本代表恩師の「金言」

2011年のW杯でも困難に直面、当たり前のことを当たり前にやることの難しさ

 パフォーマンスの向上には、粘り強い、継続した練習が必要であり、その練習に耐えうる忍耐力や謙虚さが求められます。更に練習を継続していく体力やスキルを身につける運動能力が不可欠となります。「心・技・体」と簡単に括りますが、その進歩は、練習量や経験と比例するものではなく、「ある日突然良くなった」とかそのような類で、その段階に到達する前に殆どの選手が挫折してしまうわけです。

 特に技術習得においては、「コツ」を掴むことが重要であり、闇雲に練習しても上達するものではありません。簡単に言うと「コツ」を掴みさえすれば簡単に上達するし、「コツ」を掴めなければ一流になれないということになります。この「コツ」を掴ませるのが、コーチの役目ということになります。練習を繰り返しているからこそ、ある時に「コツ」がひらめくわけで、簡単に手に入れられるものではないことは言っておきます。日々の地道な活動や練習が、ある時、実を結ぶということですね。

 監督業としても、当たり前のことを当たり前にやる難しさにも直面しました。2011年のパナマで行われた最後のワールドカップ大会を指揮した際に開幕ゲームのアメリカ戦がゲーム開始間際に雷雨のため中止となり、結果、大会日程が大幅に変更になりました。投手のローテーションを上手くコントロールできず、予選敗退したという苦い思い出があります。対戦国に合わせて先発を決めていましたが、日程が変わったこともあって、違う対戦国に投手を登板させる結果になりました。投手陣の心の準備が上手くいかなかったのではと反省しました。

 通常であれば、特に相手国など気にしないで目の前の試合に集中することができる選手たちだと思っていましたが、初の国際試合の選手が多く、何となくフワフワとした雰囲気で試合を行っているように見えました。「捕手のミットに目がけて投げる」という簡単なことも忘れて雰囲気に呑まれていたようにも見受けられました。

 そういった意味では、試合によっては、選手は自分の感情のコントロールができずに、自分を見失うことも多々あります。バットを振るとか、しっかり捕球するとか日頃から意識せずとも出来ているようなことさえ、出来なくなるのが重要な試合や国際大会でもあります。選手も監督も、日の丸の重さを感じすぎると思いもよらないミスを犯してしまいます。

 勝ち続けるチームなんてありえませんし、まして世界大会となるとそんなに甘くはありません。これは経験をした人にしか分からないと思いますが。侍ジャパンに参加した選手一人一人が、一プロ野球選手としてではなく、日本を代表する選手であることを自覚し、まずはなぜ勝てなかったのかを分析し、次に何をやるべきかを一人一人が考えて、WBCに向かってほしいですね。小久保監督が求める「当たり前のことを当たり前にやる」ことの意味を理解して。

【了】

小島啓民●文 text by Hirotami Kojima

小島啓民 プロフィール

kojima
1964年3月3日生まれ。長崎県出身。長崎県立諫早高で三塁手として甲子園に出場。早大に進学し、社会人野球の名門・三菱重工長崎でプレー。1991年、都市対抗野球では4番打者として準優勝に貢献し、久慈賞受賞、社会人野球ベストナインに。1992年バルセロナ五輪に出場し、銅メダルを獲得。1995年~2000年まで三菱重工長崎で監督。1999年の都市対抗野球では準優勝。日本代表チームのコーチも歴任。2000年から1年間、JOC在外研修員としてサンディエゴパドレス1Aコーチとして、コーチングを学ぶ。2010年広州アジア大会では監督で銅メダル、2013年東アジア大会では金メダル。侍ジャパンの台湾遠征時もバルセロナ五輪でチームメートだった小久保監督をヘッドコーチとして支えた。2014年韓国で開催されたアジア大会でも2大会連続で銅メダル。プロ・アマ混成の第1回21Uワールドカップでも侍ジャパンのヘッドコーチで準優勝。公式ブログ「BASEBALL PLUS(http://baseballplus.blogspot.jp/)」も野球関係者の間では人気となっている。

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