選手の評価や観戦にも影響 「データ」が球界にもたらすもの

データが「スカウティング」に及ぼす変化

 マイケル・ルイス氏のノンフィクション書籍「マネーボール」をきっかけに、野球界ではデータの価値が大きく変わった。ブラッド・ピット主演で2011年に映画化もされ、実在するオークランド・アスレチックスのGMビリー・ビーンがチーム編成に用いた「セイバーメトリクス(選手の評価をデータで分析する手法)」が世間にも広まった。

 チームを構成していく上でデータは欠かせず、編成の考え方も大きく変わっていった。従来の打率や防御率など、投打の選手を計る物差しとして、野球と数字は以前から切っても切れない関係だったが、さらなる数値で選手が評価されるようになった。WHIP(投球回あたり与四球・被安打数合計)やOPS(出塁率と長打率を足し合わせた数値)といった用語も、今や球界では主流となってきている。

 データがグラウンド内での戦術や選手起用に与える影響は絶大なるものとなったが、グラウンド外のビジネス面、そしてメディアの側面からもデータを活用することで視聴者の野球の見方に変化をもたらしている。

 映画「マネーボール」では、従来のスカウティング、そしてセイバーメトリクスの二つの側面が対立する場面も映し出されていたが、最近では球団のトップの考え方により、二つの比率は異なっているように思える。現地でもスカウトが職を失っているという報道を最近よく目にするが、個人的な見解としては、完全に排除されることはないだろう。日米の現場へ行くと必ずと言っていいぐらい、バックネット裏周辺には各球団のスカウトたちがノートパソコンや球速を計測するスピードガンを手に、スカウティングをしている。

 次の対戦カードに備えて、前乗りスカウトが事前に対戦相手の状態や個々の傾向を分析する。自らの目、そして数値によるデータで得た情報の両方を織り交ぜてレポートにまとめ、自軍の選手に渡される。通訳としてそのレポートを翻訳するのも、仕事の1つ。チームミーティングの際には前乗りスカウトが進行する場合も多く、彼らは表舞台に出てくることは少ないものの、チームの勝敗に大きく関わってくる貴重な存在だ。

 試合中でもデータが活用される割合は指揮官にもよるが、代打を送る場面、投手交代のタイミング、そして守備のシフトを敷く際に活用されることが多い。たまに試合中継で監督が壁に貼ってある白い紙やフォルダに目を通している時は数字を確認していることが多いだろう。チームの編成を任された人間に統計学や数字を専門とする人材が増えていき、今後さらに戦術や選手起用にもデータは影響をもたらす。打率や防御率だけではない、それ以外で選手を評価する物差しが今後さらに増すはずだ。

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