なぜ多くの名物アナが存在? メディアも球団の一員、米国の野球放送とは

全国放送とローカル放送、ターゲットの違いとは

 全国放送局とローカル局の試合を見比べていて感じる違いは、ターゲットとする視聴者だろう。地元では、試合中に地元NPOやチャリティーをおこなう財団法人の責任者をゲストとして呼ぶこともある。ホームチームの野球の試合を提供するだけでなく、地元をターゲットにした番組作りをしていることが見て取れるときが多い。地元出身の芸能人やアスリートなどをブースに招くこともある。

 野球の試合はどうなったのだろう、と疑問に思うぐらい話題がそれることもないわけではないが、162試合の長いシーズン、そして比較的ゆっくり見る野球中継だからこそできる試みなのだろう。

 全国放送の中継では、MLB全体の動きや他試合を交えた話題が目立つ。ターゲットがそれぞれの地元ではなく、野球ファン全体に向けた制作だからだろう。客観的にその街の様子を伝えたりもするため、地元局との視点も違っていて、それぞれを見比べると非常に面白い。

 2015年にはメジャー専門チャンネルMLBネットワークが「スタットキャスト」という専門分野を設立し、多くのデータを駆使した放送が可能となった。伝える側にも難しさが増したが、見る側としてはさらに野球への見方の幅が広がるだろう。MLBネットワークは視聴者が野球ファンということが前提なので、より野球の見方が深くなる情報を提供するという、ターゲットを考えた作りとなっていくのではないだろうか。

 メジャーには名物アナウンサーが多く存在し、それぞれのローカル局でも人気を誇る。それは地元に根付いたファンが多いこともあるだろうが、放送に関わる者たちも選手と同じく厳しい競争を勝ち残ってきたからだろう。

 各球団にラジオ、テレビと放送チームが組まれているものの、毎年入れ替わりがある席ではない。もちろん長いシーズンのため、「代役」としてシーズン中に何度か実況が代わることはあっても、年間を通してチーム専属アナウンサーになれる人間は一握りだ。それでも米国の野球界には、メジャーでそのイスを勝ち取るために経験を積める場が多く存在する。

 マイナーリーグだけではなく、各大学でもラジオチャンネルを持ってスポーツ専用のアナウンサーを雇用している場合が多い。それぞれの場で実戦を積んでくるからこそ、メジャーの舞台にたどり着く頃には洗練されたアナウンサーとなっている。

 ターゲットが地元であるためローカル局ではチームに縁のある元選手を起用するところも多い。それでも元選手ではなく、喋りのプロをメインに構成している球団も多く、結局は実力勝負であることが分かる。メジャーでは実力者が生き残り、多くの名物アナウンサーが存在する。その所以とは何なのか、さまざまな背景を知ることによって、理解を深めていくことができる。

 理由を追求していけば限りないが、いろいろな中継を見比べることによってヒントが見えてくる。これからはオンライン中継や端末で見られる放送など、メディアも多様化していく。ローカル局にとっては「顔」となる名物アナウンサーの存在、そして全国放送局にとっても人選や取り組みが鍵となってくるだろう。それぞれが野球というコンテンツとともにどう進化していくか今後も楽しみだ。

【了】

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

新川諒●文

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