メジャー生活50年の名将が語る野球の変化「使えない情報も山ほどある」

「現代の野球は素晴らしい。だが、気に入らないのは三振が多いこと」

 変わったといえば、栄養学的なアプローチやトレーニング方法も変わったな。もちろん、昔だってトレーニングはしっかりしたよ。でも、今の方が栄養士やトレーナーといったサポートシステムが手厚く整っている。アスリート体型の選手ばかりだし、身体のコンディションに対する意識は高まっているだろう。

 だけど、どうしても分からないことがあるんだ。今の選手の方が身体に気を配っているはずなのに、昔よりも怪我が多い。少なくとも、自分にはそう見えるね。いくら考えても確かな理由は掴めないんだが、思い当たる節はある。練習のし過ぎだ。

 メジャーでは全体の打撃練習は短いけど、その前後で各々打撃ケージで打ち込んでいる。自分に言わせれば、打ち過ぎだね。打撃の調子が良くない時に、感覚を掴むために打ち込むことは当然。だけど、感覚を掴んだと思ったら、ほどほどで終わりにしておいた方がいい。感覚を掴んでから、さらに打ち込むから、またそこで感覚を逃してしまうんだ。そうすると、また感覚を取り戻そうと打ち続ける。こうなる頃にはヘトヘトだ。そういう悪循環を繰り返すから、怪我をする選手が多いように思うんだ。分かるか?

 勘違いしないでくれよ。現代の野球は、これはこれで素晴らしい。ただし、機動力野球が減っていること、アフリカ系アメリカ人の選手が減っていることを除けばね。もう1つ気に入らないのは、全体的に三振が多いこと。三振ばかりじゃ野球にならん。今は誰もがどんな場面でもバットを振り回して三振だ。

 ホームランは大切だよ。ひと振りで試合の流れが変えられるし、何と言っても盛り上がる。だけど、バントや進塁打を使いながら、走者を1つでも先の塁に進めて点を取るのも野球なんだ。ホームラン打者じゃない限り、走者を置いた場面で三振したら野球にならない。走者を進塁させるために、自分は何ができるか。頭を使ってクリエイティブに仕掛けないと。その上での三振だったら文句はないが、根拠の見えない三振が多い。ファンだって三振ばかり見るのは楽しくないと思うよ。

 三振をしないこと。それが、ピッチャーVSバッターという対決の中で、打者に課されたチャレンジなんだ。勝負を制するためにはどうしたらいいか。アウトになっても走者を進めて、得点につながればいいんだ。三振は打者が負けたということ。ダブルプレーよりいいって言う人もいるが、三振は芸がないね。

 野球そのものは変わってはいない。いいチームっていうのは、相手よりも基本的な部分をきっちりプレーできるチームだし、ゲームの細部に気を配れるチーム。そこは、いつの時代も変わらない。

 監督として、自分の選手に対するアプローチも変わらない。選手はいつだって本当のことを知りたがるし、正直な意見を求めている。ただ、前よりも少しだけ「褒めて伸ばす」ことに重点を置いた方がいいだろう。昔は怒鳴り散らしたり、尻を叩くやり方でも、反骨心を見せる選手はいたけど、今はそういう時代じゃない。選手と話をする時でも、相手の言い分を聞いて、理解を示しながら進めていく方がスムーズだ。

選手とのコミュニケーション重視、監督室のドアは常にオープン

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