プロ野球のMVP選考への不満は解消できるか “最優秀”を投票で決める難しさ

難しい選考への不満の解消。手立てはあるか

 現在のMVP選考において、次のような批判の声が上がることがある。一つは述べてきたような事情を受け「優勝チームばかりから選ばれ、真に活躍した選手が選に漏れている」というもの。もう一つは開票結果が公開された際に、「MVPとしてはとてもあり得ないような成績の選手に票が入っている」といったようなものだ。こうした不満を持つ人々は、投票が公正になされていないのではないか? という思いを抱いているかもしれない。彼らの不満を解消する方法はあるだろうか。

 一つめについては、所属チームの勝敗は考慮せず個人記録だけで選考した場合にMVPとなるような選手がいたとして、その選手が所属するチームの勝ち星はある程度伸びるものだ。特にチーム数の少ないリーグにおいては、優勝チームからMVPが出るのは、自然に起こり得ることでもある。

 また、ぺナントレースは優勝を目指して戦われるものである。それを達成した球団からMVPを選ぶという考え方は、それはそれで一つの識見である。現在の選考方法に「優勝チームから選ぶ」といったような成文化した規約はないようだ(かつてはあったとも伝えられている)。だが、それを定めた上で「こういった場合は、優勝チーム以外の選手にも票を投じることができる」という、例外規定を設けた上で優勝チームから選ぶシステムをとる形はあり得るかもしれない。

 米国で時折見られる監督やコーチ、あるいは選手間での投票を導入してはどうか。しかし、この方法でも「チームの勝敗」と「個人での活躍」を天秤にかけ、ほどよく評価するというのは難しいであろう。もう一つの批判例として挙げた極端な少数意見が出てきてしまうという問題も、改善を期待するのは難しそうだ。

 投票という形をとる以上、その場の空気の影響を受ける。投票者を変えたところで、選考の納得感は現在と比べて大きくは変わらないのではないか。場合によってはもっと偏った投票がなされる可能性もある。

 チームと個人どちらを優先するか、改めて成文化するのはどうか。それは少々乱暴だし、だからといって、どちらかを「できるだけ優先する」といった程度の曖昧な定義では役に立たないだろう。現在投票者は3人を選び、1、2、3位と順位をつけて投票しているが、「1位だけは必ず優勝チームから選ぶ」といった決まりをつくるのはあり得るかもしれない。(ここでふと思ったが、厳密に個人よりもチームを優先し、3人すべてを優勝チームから選んでいる投票者がいるとしたら、それはMVPを選ぶという考え方としては、やはりおかしい)

 根本的な問題としてあるのは、「今シーズン最も活躍した選手」を定義することの難しさだ。最も活躍したとはどういうことを指すのか、それを投票者で共有するのは簡単ではない。ゴールデン・グラブ賞なども同じ問題を抱えているように見える。守備の最も上手な選手を選ぶ賞ではあるが、「守備の上手さ」がなんなのかはおそらく投票者間で共有されていないだろう。

 そして行き着くのは投票というシステムの性質である。例えば選挙で、あなたが「まさか、こんな政党に投票するの?」と思う政党があったとしても、その政党に投票する人は実際に存在する。投票という形をとれば、必ずやそういう場面に遭遇する。自分とは違う考え方があること、少数意見があること、それが受け入れ難いのであれば、投票というシステム自体を否定するほかない。

 MVPの選考についてまわるもやもやは、投票という行為の難しさに起因しているものだと考える。

(DELTA・道作)

DELTA http://deltagraphs.co.jp/
 2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート1~3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『1.02 Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』(https://1point02.jp/)も運営する。

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