8戦連続無失点の中日鈴木博 自らに課す“禁”とルーティンとドアラのバク転

マウンドに上がると、スタンドの看板とファンを見渡すのがルーティンに

 磐田東高校時代から相次ぐ怪我に悩まされてきた鈴木博。かつては「笑っていたんです、投げるのが楽しくて。怪我を何回も乗り越えてきたんで、投げられることが嬉しくて」というが、恩師には「隙を見せるな」と指摘された。それ以来、マウンド上ではポーカーフェイスを貫くようになった。「ガッツポーズしてそこで満足してはダメだと思いますし、次がある可能性もあるので。喜ぶのは試合が終わってから」。この日、鈴木誠也を空振り三振に仕留めた際には、思わずそれが出掛かった。「ヤバい、やってる」と瞬時に引っ込めた。それだけ気持ちがこもり、大きな価値ある三振だった。

 新人らしからぬ堂々とした投球を続ける右腕。マウンドに立つ直前に、あるルーティンを行なっている。投球練習が終わり、内野陣がボール回しをする間だ。「やることがないんですよね。その間に看板とか、スタンドのお客さんとかを見ています」。先輩の又吉克樹らから勧められた。初登板となったマツダスタジアムの広島戦から取り入れたのだが、不思議と冷静になれた。周囲を見渡す余裕。「それがいい方向にもつながるのかなと思ってやっているんですけどね」。

 ただ、このルーティン、1つ、右腕を悩ませていることがある。それが、中日の人気マスコット「ドアラ」の存在だ。「8回いくことが多いじゃないですか?ちょうどドアラがバク転する時なんですよ、それをビジョンで見ているか、生で見ているんです」。セットアッパーを務める鈴木博の登板は8回が多い。ちょうど、ナゴヤドーム恒例のドアラの“バク転タイム”のタイミングと重なるのだ。

 中日ファンにとってはお決まりの行事で、成功すれば大歓声、失敗しようものなら、「ブッブー」という効果音とともに、スタジアム中には大きなため息が響き渡る。マウンド上にいる右腕にとっては「ブッブーとなると、縁起悪いなぁって思ってます。『あぁ~』って観客の人が言うんで、今から投げるっていうのに…」となるのだという。ルーキー右腕を雰囲気で後押しするためにも、ドアラには何としても成功してもらうしかないだろう。

 とはいえ、初勝利をあげた後すぐに「今からもう切り替えて、明日への準備、心の準備、体の準備をしていきたいと思っています」と話した鈴木博。なんとも頼もしい21歳ではないか。中日という枠を飛び越え、球界を代表するリリーバーになる。そんな期待を抱かせる投手である。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)

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