8月の米トレードは優勝へ最後の一押し 最も成功した例と最も稀な珍事とは

昨季トレードでアストロズへ移籍したジャスティン・バーランダー【写真:Getty Images】
昨季トレードでアストロズへ移籍したジャスティン・バーランダー【写真:Getty Images】

昨季はアストロズが右腕バーランダー獲得で世界一に

 トレードの期限が7月いっぱいで終了した。上位球団は即戦力を手にし、下位球団は将来性ある若手を得た。優勝旗の行方を左右するトレードということで「フラッグ・ディール」と呼ばれているこの時期のトレードは、ファンにとっては大きな関心事である。

 とはいえ、8月になってもトレードは可能だ。ウエーバー公示をしてトレード要員を各球団に明らかにする必要があるものの、活発に行われる。ポストシーズンのロースターに登録するには8月末日時点でチームに在籍していなければいけないので、ポストシーズンを見据える球団にとっては、まさに駆け込みトレードである。

 記憶に新しい強烈な例は、昨年のジャスティン・バーランダー投手だ。アストロズが8月31日、タイガースにマイナー3選手を出して獲得した。

 バーランダーは2004年のドラフト1巡目(全体2位)指名で入団してからタイガース一筋。愛着ある球団を去るのは複雑な心境だったようだが、心機一転。下位に低迷するタイガースで8月まで10勝8敗、防御率3.82だったが、アストロズでは5試合に登板して5勝無敗、防御率1.06と大活躍を演じた。

 ポストシーズンでも4勝1敗、防御率2.21。アストロズのワールドシリーズ初制覇に大きく貢献した。とりわけヤンキースとのア・リーグ・チャンピオンシップシリーズでは2勝無敗、防御率0.56でMVPに選出された。自身3度目のワールドシリーズで初めて優勝を経験したバーランダーは「アストロズに来てよかった」と感激していたものだ。これでタイガースに移ったマイナー選手が期待通りに成長したら、アストロズ、タイガース両球団にとってウィン、ウィンになるであろう。

 過去、最も成功したとされる例に。1987年8月12日に成立したタイガースとブレーブスのトレードがある。タイガース傘下のマイナーにいた当時20歳のジョン・スモルツ投手と、当時36歳のベテラン、ブレーブスのドイル・アレクサンダー投手。アレクサンダーはその年、ブレーブスで5勝10敗、防御率4.13だったが、タイガースでは11試合に登板して9勝無敗、防御率1.53で、タイガースに3年ぶりの地区優勝をもたらした。

 スモルツは移籍翌年の1988年にメジャー昇格を果たし、常勝ブレーブスを支える。通算213勝、154セーブで殿堂入りを果たす大投手になった。

 8月のトレードは珍事も生み出した。1990年、カージナルスのウィリー・マギー外野手は8月29日にアスレチックスにトレードされた。その時点で規定打席に達しており、打率.335はナ・リーグ1位だった。結局マギーの打率を上回る選手は出ず、シーズン終了時にア・リーグの選手がナ・リーグの首位打者になるという史上初の事態になった。

 2012年からワイルドカードの枠がア・ナ両リーグとも1から2に増え、ポストシーズン進出を諦めるタイミングの見極めが難しくなった。その分、8月のトレードが重要になってきた。まだまだ各球団の動きから目が離せない。

(樋口浩一 / Hirokazu Higuchi)

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