篠塚和典氏が明かす”真実” 伊藤智仁氏を打ち砕いた「伝説のサヨナラ本塁打」

なぜ打席を2度外したのか「『そんなに投げたいなら、はいどうぞ』と」

 9回、ヤクルトに好機を作られたものの無失点で切り抜け、同点のままその裏の巨人の攻撃へ。3人目の打者だった篠塚氏は「自分の前は四條と吉原だったのですが、吉原は三振しそうだなと思っていたから、タイ記録にはなるだろうと思ってましたよ(笑)。新記録だけは……(阻止したい)というのがありました」と笑顔で振り返る。

 実際に、四條はニゴロに倒れたものの、吉原はスライダーに空振り三振。セ・リーグタイ記録の16Kとなり、2死走者なしで篠塚氏が三振なら新記録という状況で打席が回ってきた。

 球場が騒然とする中、篠塚氏は「最初は三振しないように、というのがあった。最初から振れるところが来たら振っていこう」と左打席へ。そして、伊藤氏が1球目を投じる前に2度、打席を外している。

「あれは自分のリズムでやりたかったからですね。彼は私がバッターボックスをならしてる時にもう構えていたから。私は打席に入ったら2回、ワッグル(足場を固める、バットを軽く振るなど、構える前段階のルーティンとなっている動作)をして構えるのですが、1回目をやって、2回目をやる時に彼が投球に入ろうとしたから、まずは1回外しました。また同じようにやったら、同じ感じだったから、また途中で外した。それで、3回目は合わせたんですよね」

 打席を2度外した篠塚氏は、次はワッグルを1度も行わずに構えに入っている。

「『そんなに投げたいなら、はいどうぞ』と。それは1つのリズムですよね。逆にもう1回やっていたら打てなかったかもしれないし。『投げたいなら投げなさいよ。すぐ構えるから』と。3回外すと、間が悪いんじゃないかなというのもありました」

 直後の初球、138キロの直球が高めに入ってくると、篠塚氏はものの見事に捉える。完璧な当たりは右翼スタンドへ一直線。打球を見上げていた伊藤氏は、ホームランだと分かるとマウンド上で崩れ落ち、地面に手をついて悔しがった。一方、篠塚氏は悠然とダイヤモンドを一周し、両手を突き上げてチームメートが待ち構える本塁へ。もみくちゃにされた。1-0で巨人がサヨナラ勝利。セ・リーグ記録の16三振を奪った伊藤氏は援護に恵まれず、悲劇的な幕切れで敗戦投手となった。

初球は打たないというイメージも…「そうはいかないよね(笑)」

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