服は「ユニクロ」、高級時計は「勇気が出ない」中日笠原“庶民派”として目指す道

「バンバンお金を使うようになると、調子に乗っちゃいそうで…」

 退院した1週間後に、元気な女の子が誕生した。「1軍にいたら出産直後に一緒にいる時間がとれなかったと思うんで」と戦線離脱を前向きに捉えた。ナゴヤ球場での練習後は即帰宅し、沐浴やおむつ替えに精を出す。菜々美さんも「意外といいパパ」と“評価”する。入院中に差し入れでもらった「初めてのパパ教本」を熟読した成果でもあった。

 開幕投手、不整脈の治療、子の誕生……。どれも自らを奮い立たせるにはうってつけの出来事だが、笠原はあえて逆の発想で、こんな時こそ浮き足立ってはいけないと考えた。先発投手として栄えある大役も「オープン戦で調子がよかったからたまたま。だから変なプレッシャー感じずに普通に投げました」とサラリとしたもの。弱肉強食の世界で「ひっそりと活躍したい」と言う。ともすれば勘違いされてしまいそうな言葉だが、そこには確固たる信念がある。

「調子に乗りたくないんです」。成績を残せば年俸が数十倍にもなり、生活も性格も変わってしまう選手もいる。その環境にあぐらをかいていると、あっけなく足元をすくわれる――。だから自らは、いっときの好不調に左右されず、地に足をつけて初心でいたいと律する。

 今季の推定年俸は2100万円だが、金銭感覚に狂いもない。「おしゃれが分からない」と、服はたいていユニクロでまとめ買い。同僚たちが身につける高級時計に憧れるが「まだ勇気がでなくて」。さらには、遠征先の高級ホテルでのクリーニングサービスに二の足を踏み「コインランドリーがあればいいのに」と嘆いた。

 ケチではない。「バンバンお金を使うようになると、調子に乗っちゃいそうで」。そんな“庶民感覚”は、チームでの立場は変わっても全く変わらない。復帰を目指す今は、はやる気持ちを抑え「離脱して肩肘を休めることができた」とプラス思考に。交流戦後の1軍マウンドを見据え、6月14日には実戦形式のシート打撃に登板した。入院中、真っ先にお見舞いに来てくれた柳がすでに7勝と飛び出したが「柳が注目される陰で、しれーっと勝っていきたい」。公私ともに大きな出来事を経た24歳が、「影のエース」を目指して帰ってくる。

(小西亮 / Ryo Konishi)

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