ヤクルト夢の宴の余韻が冷めやらない ファンの涙が止まらなかった理由

涙の理由はもう一つ 二度と見ることができないと思っていた光景が目の前に…

 もう一つは、もう見ることが叶わないと思っていた光景が目の前で実現したからだ。

 私がプロ野球取材1年目の時に、新人としてヤクルトに入団し、それ以来ずっと応援していた川島亮元投手の姿。怪我に泣かされ、他球団に移籍して現役生活に幕を下ろした彼が、神宮球場のマウンドに上がっている。そしてその球を受けたのが、同時期に在籍していた米野智人元捕手であり、対戦相手としてバッターボックスに立ったのは、同じく同時期に選手としてヤクルトに在籍し、引退後マネージャーとして優勝監督時代を補佐した真中満元監督という、まさに私にとって夢の瞬間だった。

 また、韓国からこの球宴のために来日してくれた、林昌勇元投手の登板もしっかりと目に焼き付けたいと思った。2008年から2012年までヤクルトに在籍し、ストッパーとして活躍。日本球界を去った後は、メジャーリーグや母国韓国の球団で活躍したが、去年10月に戦力外通告を受け、今年3月、引退を表明した。母国でも成績を残した彼だったが、引退試合などが催されることはなかった。今回の登板がまるで彼の引退試合かのように、とても嬉しい気持ちにさせてくれた。彼の名前がコールされた時の歓声と拍手の大きさは、神宮球場に集ったファンの気持ちをはっきりと表していた。

 引退試合が用意されるのは本当に一握り。ファンは思い思いにユニホームを脱いだ選手たちを追っていた。このOB戦がなければ絶対に実現することがなかったであろう様々な光景が目の前で叶い、しかも、ケガやプレッシャーなどから解放され、みんなが笑顔で楽しそうにプレーしていた。見ていて、とても嬉しかった。
 
 球団設立50周年を記念して行われた夢の宴。神宮で見た人たちも、テレビの前で見た人たちも皆きっと、それぞれの「ヤクルト」へのこれまでの思いが溢れ、たくさんの思い出を呼び起こしていたに違いない。そして笑顔の名選手たちの姿を見て、嬉し涙もたくさん流したことだろう。

 ゲーム後のセレモニー最後、野村元監督から私たちはまた新たに多くのものをもらった。ノムさんの中の「ヤクルト愛」、我々ファンにかけてくれた「ありがとう」の言葉、そして今季のヤクルトの戦いに対する叱咤激励の「ボヤキ」。それら一つ一つは、きっと選手にも、そしてファンにも新たな一体感をもたらしてくれた。

 この夢の続きを、また見られる日を楽しみにしている。

(新保友映 / Tomoe Shinbo)

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