MLB史上初の快挙達成…ダルビッシュの現在地「自分はどちらかというと芸術家」

「日本にいる時はとにかくエグイ球を投げよう」

 4月10日のパイレーツ戦で、ダルビッシュは今季3度目の登板で2年ぶりの無四球を記録。しかし、その後の5登板で1試合平均4.4個の四球を与え1か月間に渡り無四球から遠ざかった。その後も四球禍は続きようやく6月終わりから解消へと向かう。その渦中にあった4月20日のこと。ダイヤモンドバックス戦で3敗目を喫した試合後、ダルビッシュは煮え切らない胸の内を吐き出すように言った。

「日本にいる時はとにかくエグイ球を投げよう、どんな球を投げよう、次はどんな握りでこう投げたらどんな変化をするんだろう?と、ずっと楽しんでいた。ブルペンの日もすごく楽しんでいた。でもアメリカに来てからはブルペンでも『ストライク、ストライク』と言われている。ストライクを常に投げないといけないと……。気持ちもこの数年間でだんだん落ちていって。そういうのもあるのかな? 何か職業的になっているというか、自分らしくない」

 めずらしく、心境に惑溺するかのような言葉を紡ぎ続けたダルビッシュは、うつうつとして楽しめない気持ちを解き放つように結んでいる。

「自分はどちらかというと芸術家。自分のやりたいようにやって味が出るタイプ。考えて考えてというタイプではない」

 あれから2つ目の季節が移ろう今、期せずして連続無四球と奪三振数での新記録を打ち立てたダルビッシュは、制球に関しての独自の見解を示している。

「コントロールって才能だと思ったんですね、速い球を投げるのと一緒で。上原(元巨人)さんとか岩隈(現巨人)さんとか田中もそうだし、天才なんだろうなって。俺にはそんなの無理だってずっと思っていたんですけど……」

 振り返れば、昨年は新たな右肘の痛みを訴えながらなかなか原因を特定できず、精神的にも苦しんだ。その影響もあってか、今季開幕からフォーム固めに苦しみ、足の上げ方、骨盤の向き、リリースのタイミングなど春は試行錯誤を繰り返す日々だった。白星に焦り、今季1度も投げていなかったツーシームを開き直って使ったこともあった。

 快記録達成の夜、本来の感覚を取り戻したダルビッシュは与四球過多を解消させた要因を探る最後の問い掛けに、間髪入れずにこう返した。

「特にないですよ。なんとなくホームプレートの方向に向かって投げているというだけで」

 一頭地を抜くポテンシャルの33歳右腕は、試練を乗り越え、無傷の未来へ挑み出した。

(木崎英夫 / Hideo Kizaki)

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