7年前の日本シリーズで危険球退場と死球 “因縁”の2人が描いた同じ「夢」

同じ松坂世代 引退後、加藤はBC新潟の球団社長補佐兼コーチを経て来季は巨人3軍コーチ 多田野は日本ハムスカウト

 誠実な気持ちを持って18年、野球をやってきた加藤にとって、この日本シリーズから引退するまでずっと心に引っかかり、忘れられない試合のひとつだった。引退後も多田野やブーイングをさせてしまった日本ハムファンのことを気にし続けていた。

 加藤と多田野は“松坂世代”の同学年のプロ野球選手だった。しかし、現役中に接点はない。加藤は2016年に現役を引退し、ルートインBCリーグの新潟アルビレックス・ベースボールクラブの球団社長補佐に就任した。今年はベンチに入り、コーチとしても選手を指導した。来季からは巨人で再び、3軍コーチとして指導する。昨年の3月、加藤は多田野が現役引退セレモニーをすることが札幌ドームで行われると聞き、花を贈った。その後、関係者を通じて、電話で話す機会もあり、わだかまりは解けた。

 多田野は引退後、ファイターズのスカウトになった。ルートインBCリーグの試合会場で多田野スカウトの姿を見る姿が何度とあった。視線の先には新潟アルビレックスBCの選手ら多くの独立リーガーたち。自身も石川ミリオンスターズでのプレー経験があるため、チェックにも力が入る。

 試合後、ユニホーム姿の加藤は、多田野スカウトの訪問を喜びながら、話し込んでいた。1度だけではなく、何度も新潟の試合が行われる球場には足を運び、選手たちを見ていた。熱心なスカウトに、何とか選手をNPBに送り出したい指導者の構図だった。視察を終えた別れ際、加藤が「また、よろしくお願いします」と言うと、多田野も「こちらこそ、よろしくお願いします」と笑顔で挨拶をしていたのが印象に残る。

 そして、今年のドラフト会議。日本ハムは新潟からパンチ力のある樋口龍之介内野手(立正大)と150キロ超右腕の長谷川凌汰投手(龍谷大)を育成2、3位で指名。25日に多田野スカウトが新潟市内の球団事務所で、指名挨拶を行った。一人でもNPBの舞台に送り出したいという2人の思いが身を結んだ。樋口は「改めて指名挨拶を受け、気が引き締まりました。1日でも早く支配下登録されるよう、頑張ります」。長谷川は「北海道日本ハムファイターズの一員になれる日が近づいたことを実感しました。1日でも早く1軍のマウンドに立てるよう、今日から気持ち新たに努力していきます」と夢に向かって羽ばたいていく。

 もしも、まだ加藤に心残りがあるとすれば、多田野を退場にさせてしまい温かい心で知られる北海道のファンを失望させてしまったことかもしれない。もう7年の時が流れた。それでも忘れることはない。加藤はBC新潟を先日退団したが、今度はNPBに送り出した教え子が、北の大地でファンを沸かせる日を強く願っている。

(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)

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