「前に出ろ」「足を使え」という指導の正体は? 巨人藤村コーチが抱いた疑問

前に出ろ、という指導が自分自身の成長の邪魔をした

「僕は“前に出ろ、前に出ろ”という教えが(自分自身の成長の)邪魔をしたんじゃないかなと感じています。迷って前に出て、エラーして、次から守備位置を下げたら、チームにだって迷惑がかかる。迷っても、後ろに下がってアウトにできるならば、OKなんじゃないかと思うんです。ただ『前に出ろ』も指導法のひとつなので、否定はしません。根拠があるケースもあるでしょうから。ただ(根拠なく)そういう指導は僕はしません」

「足を使え」というのも、人それぞれの使い方がある。「足を使うってどういうことですか?」と聞かれて、答えられるようにしたいと、藤村コーチは自分の考え方は持っている。それは自分が現役時代に何をどう使ったらいいかわからなかったことや、聞けなかったからおもむろに前に出続ける自分がいたからだ。

「(内野手が捕球するときに)ボール(の方)に入っていくのか、待つのか、下がるのか……どれも足の使い方なんです。ボールが来るときに、バウンドと捕球体勢を合わせるのに(片足)ケンケンをしたり、ステップをしたりするのも足の使い方。そういったことももっと早く知りたかったなと今は思います」

 指導者になってみて、新たな発見や自身の反省も生かしながら学んでいる。自分が学ぶことをやめてしまったら、指導者をやめなくてはいけないというポリシーも持っている。だから空いている時間さえあれば、本に目を通すし、選手にためになる情報を探している。

「以前はなかなか、頭に入ってこなくて。活字が苦手で避けてきていました。ですけど、それって、自分がやりたくないからかなと思うようになりました。僕の教えたことが選手一人の人生がかかっている――その責任を感じながら、本を読んでいたら、頭に入ってくるようになりました」

 本のジャンルは、名監督の思考から、技術指導など、幅広い。頭や感覚でわかっていながらも、なかなか文字で説明することが難しい発想が、本で書かれていることもある。そういう時に自分の引き出しが増える感覚もなる。

「自分がそれまで知らなくても、教え方やアプローチ方法がたくさんあった方が、自分の武器にもなります。選手も助かるのではないかと思います」

 今年の指導の中で、取り入れたことはいくつもある。そのうちのひとつに内野手のバックトスの練習だった。高卒の育成1年目、将来性の高いと言われる黒田響生内野手の練習メニューに組み込んだ。MLBの選手では主流のプレーだが、日本ではそうではない。何もメジャーのマネをさせようとしているのではなく、若い頃から感覚をつかんでもらいたかったからだ。

「MLBの選手は子供の頃から、そういうプレーやっていたから、自然とできる。日本は基本に忠実。練習ではやってきていないので自然にはできません。実際に僕は試合でやってやりやすかった。たくさんやらせてみて、何か気づきを得てほしかったんです。あくまで基本練習。でも『試合ではやるなよ』と伝え、練習させています。今は体の使い方を覚えさせるという狙いです」

 いざという時にできるようにこの18歳、19歳という時期から高いレベルで戦える準備をしておいてほしいという願いが込められていた。巨人にも成長著しい若手は育っている。藤村コーチも18歳で巨人に入り、同じように期待された。応えられなかった部分もあった。成功も後悔も、指導者になった今、すべて自分の糧として、若い力を引き出していく。

(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)

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