「ここでダメだったら、もうダメ」 復活期す田澤純一が「野球人生を懸ける場所」

レッズ傘下マイナーの田澤純一【写真:佐藤直子】
レッズ傘下マイナーの田澤純一【写真:佐藤直子】

筋量はあっても自重を操れず「『え、できない…』と自分で愕然としました」

 2009年に22歳でレッドソックス入りした田澤は、それまでメジャー式のトレーニングを積んできた。ウエートトレーニングを軸とした筋力アップと体作りに専念。2013年には鉄壁のセットアッパーとしてワールドシリーズ制覇に貢献するなど、結果は出た。だが、時は流れて迎えた30代。否が応でも迎える体の変化に合わせて、トレーニングもまた見直す必要があった。

 筑波大学に訪れるようになった当初、田澤はプロジェクトチームの面々に「この体でよくピッチングをしていたね」と驚かれたそうだ。ウエートトレーニングで身に付けた筋肉に覆われた体は、自重すらコントロールできなかった。田澤は「重り(ウエート)を持つべき体になっていない。その前段階のトレーニングをしよう」と言われたことを覚えているという。

「自分の体を全く操れていなかったんです。例えば、何もない場所で腹筋をしてって言われても、うまくできない。『え、できない……』と自分で愕然としました。重い負荷のマシンは動かせても、何も重りを持たずにする簡単な動きで自分の体重が支えられないんです。それを見ていた大学関係者の方に『2週間でできるようになるよ』ってサラッと言われたんですけど、僕は結局、2年掛かりました(笑)」

 決してウエートトレーニングが悪いと言っているわけではない。ウエートトレーニングが必要な年代もあるし、相性がいい人もいる。どんなトレーニングが合うかは十人十色。ただ、田澤の場合、自分の体を自由に操れるようになる前に大きな筋肉で“武装”したため、肩甲骨や股関節周りなど柔軟性が求められる場所が窮屈な状態になり、動きが制限されていた。どうしたら制限されていた動きを解除できるのか。

 田澤が筑波大学で取り組むトレーニングは、主に体の部位の連動と、動きのバランスを意識したものだ。例えば、腕を上げるには肩、上腕、背中、胸部などの筋肉が連動し、肩の関節を動かしている。より高く腕を上げるためには、上げるという動作をする前に、関係する筋肉がより柔軟に動くようにトレーニングで整えておけば、高く上げるという結果が得やすくなる。1つの動きの成り立ちをより細やかに探り、一見あまり関係ないように感じる部分から丁寧に整え、目指す結果に近付いていく。この作業は、発熱をした時に解熱薬で症状を緩和させる即時の効果を狙う対処療法ではなく、発熱の原因を探ってそこから整える根本療法に似ているのかもしれない。田澤にはこういった考え方が「新鮮だった」という。

「例えば、速く走るためにはもっと腕を振って足を高く上げなさい、というアドバイスではないんです。体のAという部分に力を入れる意識、Bという部分の柔軟性を高める意識でトレーニングした後で、もう一度走ってみよう。ほら、前より少し腕が振りやすくなって、足も上がりやすくなったよね。その結果、スピードも上がったね、という感じ。それまで僕の中にはなかった考え方だったので、すごく新鮮でした」

週5日を過ごした筑波大学でのトレーニング「自分の野球人生を懸けるつもり」

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