加藤豪将の「技」に迫る 修羅場続きのマイナー生活とロッテ入り鳥谷から学んだ打撃術

大リーグではフライボール革命が全盛「スイングの軌道は変えてません。高めの球は当然意識するようになりました」

 近年大リーグで巻き起こった「フライボール革命」は、「マイナーにも波及して来ました」と加藤は振り返る。打者が得点に貢献するため打球に角度を付けて打ち上げることを推奨する打撃理論は、本塁打の増加をもたらした。一方、投手は高めの速球を投げ出す。打者のバットが下から出る軌道になったことへの対抗策である。ヤンキースの田中が今キャンプ序盤に「インハイを磨く」と言っていたのもこの点にある。

 野球が変革のうねりを上げる中、加藤はヤンキースのマイナー時代を苦しみながらも駆け抜けた。その加藤豪将は今、打席で何を思いボールを待つのか――。

「スイングの軌道は変えてません。が、高めの球は当然意識するようになりました。具体的には、ゾーン高めいっぱい辺りの球を待ちます。しかも反応時間が短く難しい内角高めに意識を置きます。以前は膝辺りの球を待っていたんですけど、今は、上のボールを待って下のボールに対応するという感じです」

 惜しみなく開陳したその意識で臨まなければ、相手投手の思うつぼにはまる。打者と投手のせめぎ合い、言い換えるなら、“駆け引き”は「3Aに上がるまではなかった」と加藤は述懐する。なぜなら、マイナーでの指導は個々の選手が持つ能力を引き出すことに主眼が置かれるためで、階級が低いレベルでは大味な力勝負が日々繰り返されている。

「投手との頭脳戦を“チェスマッチ”と英語で言いますが、相手の心理を読む勝負はこれまでとは全然違う野球をしている感覚です。それが凄く楽しく思えるんです。スカウティングレポートの何を参考にしたらいいかも分かってきました。毎打席にプランがあります」と加藤。

 3月3日(日本時間4日)のメッツ戦では、2Aと3Aで対戦経験のあるアドニス・ウセタと対峙。落差のあるチェンジアップに150キロを超える直球を配して挑んでくる右腕が3球連続で投じたチェンジアップを見極めると、最後、読んでいた外角高めの153キロを振り切って空振り三振。試合後の加藤は「いいアプローチができました」と明るい表情で結んでいる。

 10日(同11日)現在、12試合に出場し11打数3安打4四球3三振、打率.273の成績を残す加藤が、ここまでを自己分析する。

「四球が多い方なのはボールを見極められていることなので自分にとってはプラスです。メジャーの投手と戦ってもそれができているのは凄く自信になります」

 今キャンプにはドジャース時代の2011年に39本塁打でナ・リーグ本塁打王を獲得したマット・ケンプと、加藤が目指す複数の守備をこなすユーティリティ・プレーヤーとして大リーグ10年の実績を誇るショーン・ロドリゲスら強力なライバルが同じ招待選手として参加している。日々、激しい生存競争を展開しているが、ここまで打率、OPS(出塁率+長打率)共に加藤は1割もの差を付けて両選手を抑えている。

 この現状について問うと、抑制の効いた声で返した。

「数字は全然気にしてません。評価はGMやフロントが下すものなので、僕は自分のできることをやればいいと思っています」

 オープン戦もすでに半分を過ぎ、解雇やマイナー行きの振り分けが活発化してくる。この状況に加藤は「挑戦をするのが好きなんです」と泰然と構える。

 加藤豪将はサバイバルレースを嬉々として享受し、悲願のゴールを目指す。

 次回は、加藤豪将が視界に入れた大リーグ檜舞台への「心」の淵源(えんげん)を覗く。

(木崎英夫 / Hideo Kizaki)

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