「バレンティンが山田哲人の盗塁を助けていた」は本当? 打者の盗塁サポートを検証

バレンティンの打席でポップタイムは短くなるのか?

 前提を確認したところで本題に入っていく。実際にバレンティンの打席ではポップタイムが長くなっているのだろうか。昨季バレンティン打席時の二盗でポップタイムが計測できたのは14回。このときの平均ポップタイムは1.964秒だった。NPB平均が1.963秒であるためほぼ同じだ。0.001秒だけバレンティン打席時に遅くなっているが、ほとんど計測誤差の範疇である。先ほど確認したポップタイムと二盗阻止率の関係から考えても、0.001秒の差は阻止率にほとんど影響を与えないと考えられる。

 ただしポップタイムの計測はサンプルが少ない。前述したとおり2019年のバレンティンで14だった。バレンティン打席時に偶然優れたポップタイムを記録する捕手が多かった可能性もある。そのような捕手に対しNPB平均並のポップタイムを記録させているのであれば、バレンティンのスイングが捕手に影響を与えていると考えられなくもない。

 そこで、バレンティンの打席での(1)平均ポップタイム1.96秒と、バレンティンの打席で(2)送球した捕手のシーズン平均ポップタイムを比較する。(2)より(1)の時間が長ければ捕手のもっている送球能力以上にポップタイムを遅らせたと考えることができる。

打者別平均ポップタイム【画像:DELTA】
打者別平均ポップタイム【画像:DELTA】

 イラストがその結果だ。(1)バレンティンの打席の捕手のポップタイム1.96秒に対し、(2)送球した捕手のシーズン平均ポップタイムは1.99秒。バレンティンの打席の盗塁企図で、ポップタイムの短い捕手が送球をしていたわけではなかったようだ。むしろバレンティンの打席では0.02秒とわずかではあるがポップタイムが短くなっていたという結果だ。

 イラスト内、バレンティンの下には同様の手法で計算をした際、(1)と(2)の間で大きな差が生まれていた選手を記した。画面内赤の矢印で示したのが、打席時に捕手のポップタイムが遅くなっていた打者たちだ。打者によってプラス・マイナス0.05秒程度の差が出ているが、二盗阻止の観点から考えると無視できない時間の長さである。

 ただし今回の検証は2019年のみ。打者ごとのポップタイムの記録はレギュラー野手でもシーズン10~20回と少なく、あくまでも参考の域を超えない。実際に打者にそのような能力があるかの断定はもう少し多くのデータを集めての検証が必要になる。

 また今回、2019年のバレンティンの打席でポップタイムが遅くなっていなかったことがわかったが、これはイコール盗塁をサポートできていないということにはならない。ポップタイムは盗塁阻止のほんの一要素に過ぎない。捕手の送球を乱れさせるなどほかの要因で走者をサポートしている可能性は十分考えられる。盗塁を期待できる走者が出た場合、走者やバッテリーだけでなく打者の行動についても注目する価値はありそうだ。

【動画】大きなフォロースルーが走者を助ける? バレンティンの豪快な打撃フォームを実際の映像で確認

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