【球界と共に1】想定すべきは「ワーストケース」 危機に立つ球団の首脳ができること

震災後に数百万円かけて本拠地Kスタ宮城に地震感知器を設置、審判と連動するシステムを構築

「11年には3月11日以降も、たびたび大きな余震がありました。気象庁が地震波をキャッチし、強い揺れが始まる前に、テレビ・ラジオ・携帯電話などを通じて緊急地震速報を発表するしくみになっていましたが、これにはタイムラグがあり、そうこうしているうちに揺れが始まってしまって予防にならない可能性があった」

 そこで、「気象庁が基地局で使っているような地震感知器を、数百万円かけて本拠地Kスタ宮城(現:楽天生命パーク宮城)に設置しました」と明かす。「試合開始後は感知器のある部屋に必ず1人張り付け、地震波を感知したら、審判の腕に巻かれたバイブレーターを作動させ、試合を止めるかどうかの判断をしてもらうシステムを作り上げました」と説明する。規定上、いったんプレイボールがかかったら、主催球団であっても勝手に試合を止めることはできず、その権限を持っているのは審判だけだからだ。

 それだけではない。「照明塔に関しても、震度いくつ以上だと倒れる可能性あり、その場合はどちらの方向に倒れるのかを計算し、フィールド内のどこが安全ゾーンなのかを特定しました。そして、どの動線で避難すると何分何十秒かかるか、実証実験と予行演習を繰り返しました。地震が起こった時にどう対応するのか、準備するだけでなく常日頃から訓練しておくことが重要でした」

 幸い、球場の地震感知器が作動して試合が止まることも、観客が避難を余儀なくされることもなかったが、いま改めて、各球団に万全の危機管理が求められている。

 島田さんは「球団によって温度差があり、対応も様々。感染予防については、マスコミの報道を見ながら後手後手になっているのが現状だろうと思います。いまは、仮に公式戦を始めるとして、たとえば選手や観客に感染者が判明した場合、拡散を防ぐために、試合を止めるとか球場を閉鎖するとか、こういう事が起こったらこう対処すると、きちんと準備すべき時期ではないかと思います」と提言する。

 さらに島田さんは、今後NPB(日本野球機構)と各球団が直面するであろう課題についても語ってくれた。強調したのは、「経営者は“ワースト・シナリオ”(最悪のケース)を想定しておかなければならない」ということだった。

 次回は、今後NPBと各球団が直面する課題と“ワースト・シナリオ”を紹介する。

島田亨(しまだ・とおる) 1965年3月3日、東京都生まれ。
2004年12月に東北楽天ゴールデンイーグルスの代表取締役社長に就任。08年1月からオーナーを兼務。12年7月、海外赴任に伴い退任。14年に楽天株式会社代表取締役副社長に就任。16年3月に同社を退社。17年3月、U-NEXT(現USEN-NEXT HOLDINGS)取締役副社長COO就任。トランスコスモス社外取締役ほか、長年エンジェル投資家としても活動、複数企業の経営をサポートしている。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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