代打はレギュラーへの登竜門?それとも職人技? 一振りで結果を残す打者たち

代打通算最多安打は1962年から74年まで広島でプレーした宮川孝雄の176安打

 昭和の時代には「代打の切り札」と言われる職人肌の選手は確かにいた。当時は選手の登録枠が60人と少なく、1軍、2軍の選手の入れ替えも少なかったので、控え選手も持ち場が固定されることが多かった。その代表格が、昨年死去した高井保弘だ。阪急一筋16年の高井は、代打として457打数114安打27本塁打108打点、打率.249。代打本塁打25本はNPB史上最多。これはMLB最多のマット・ステアーズの23本塁打をも上回っている。

 また代打通算最多安打は、1962年から74年まで広島でプレーした宮川孝雄の176安打。599打数176安打6本塁打114打点、打率.294を記録している。しかし近年は「代打一筋」で長くプレーする選手はほとんどいないので、高井や宮川の記録を更新する選手は出そうにない。ただ、今も昔も共通する「代打の適任者」がいる。それは「レギュラーを外れた名選手」だ。長くチームの中心打者として活躍し、引退が近くなってレギュラーを外れ、代打に回った選手の中には、好成績を残す選手がいるのだ。

 その代表格が若松勉。通算打率.319はNPB史上3位。ヤクルト史上最多安打の大選手だが、晩年の3年間は代打に回った。1987年は36打数16安打1本塁打12打点、打率.444、1988年も64打数22安打1本塁打18打点、打率.344、最終の1989年こそ44打数8安打0本塁打4打点、打率.229に終わったが、通算でも258打数90安打12本塁打72打点、打率.349という凄さだった。また、阪神の八木裕は97年から代打で活躍し、ファンから「代打の神様」と呼ばれた。

 最近でも2017年に広島の新井貴浩は31打数10安打1本塁打10打点、打率.323を記録。昨年も、この年限りで引退した日本ハムの田中賢介が打率こそ53打数14安打の.264だが5月29日のロッテ戦では代打逆転2ランを打つなど8打点を挙げた。

 長年、主力打者として活躍してきたベテラン選手は、多くの投手の癖や特徴をよく把握している。その上に場数を踏んでいるので、好機にも物怖じせずゆとりをもって打席に立つことができる。ベテランが代打で結果を出すことが多いのは、こうした事情ではないかと思われる。新型コロナ禍で今季は試合数が少なくなるが、今年も、代打が劇的なドラマを見せてくれるだろう。

(広尾晃 / Koh Hiroo)

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