球団広報となった元巨人左腕が繋ぐファンとの絆 ユニーク企画はどのように生まれた?

自主練習期間中はペンとメモ帳を持って“取材”、インスタライブは人気コンテンツに

 この自主練習期間中は報道陣も自粛となっているため、「記者さんみたいなことしています」と選手のコメントなどをとって、メディアに届けている。選手の一番近くに立って、ファンに「何か届けることはできないか」と模索している。

「毎日、同じことは聞けないので、最近は家の過ごし方などを聞いています。日頃の報道の皆さんの大変さを感じています」

 巨人は自主練習期間でたくさんのコンテンツを発信し、ファンを楽しませている。

「球団全体でファンの皆様を盛り上げようと頑張っています。特にSNSですね。今年できたブランドコミニケーション部の若いスタッフたちが力を入れているんですが、今はファンの皆さんが野球を見に来られないので、選手やコーチ同士のインスタライブをやりました。選手プレゼント企画とかも考えています」

 他にも球団カメラマンの存在も大きい。各媒体のカメラマンも球場に来られないため、要望を受けて、球団から写真を提供している。柔らかい表情から真剣な表情まで、あらゆる要望に応えてくれていて「SNSや動画が目立つ中、写真1枚の情熱や思い、すごいと思います」と頭の下がる思いだ。

 うれしいのは、職員だけでなく、選手から提案を受けることが増えてきていることだ。

 エースの菅野は、中学生以下の野球少年へ、巨人(OBを含む)選手の「ものまねチャレンジ」を企画。左腕の田口は球団公式インスタグラムで選手のものまねクイズを定期的に公開。ベテランの亀井はファンが見たいツボを押さえており、自らがカメラを持って、主将の坂本へ近づき、亀井しか撮れないような外野守備映像を収めたりしてくれている。

「選手の方から『こういうのはどうですか?』とか言ってきてくれます。選手たちもファンが試合を見られない辛さをわかっています。そういう思いを伝えてあげられるのが僕らの役目と思っています」

 新しいチャレンジがそこにはある。巨人・今村球団社長が「飛んでから考えろ! 潜ってから息を吸え!」と昨年の就任会見でこのように述べたが、阿南さんはその“モットー”を「考える前に行動、失敗を恐れずにどんどん挑戦していくこと」ととらえ、広報として心掛けているという。

「選手とメディア、ファン、それぞれがお互いの気持ちを理解して、チームの盛り上げ、ファンサービスをしていきたいと考えています。プレーに支障が出ないよう選手の気持ちを最優先したいですが、なんとかメディアの方のリクエストにも応え、ファンに届けられるようにしたいというのが広報として一番、心がけていることです」

 迎えた国難の中、巨人は原監督の「ファンと共に球春到来を迎えたい」という力強いメッセージのもと、共にこの状況を乗り越えようと「WITH FANS」というプロジェクトを発足。ロゴマークには、満員で埋め尽くされた球場のスタンドを表現し、当たり前だった光景が元に戻る日まで、ファンとつながり続ける取り組みを行っていく。その選手とファンの間に入る重要な役割として、阿南さんたちは前を向いて、歩を進めていく。

(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)

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