球史に残る名外野手が認める名手とは? GG賞9度の平野謙氏が語る真の“上手さ”
教え子の中日・平田との秘話「守備が下手だと自分で思っていた」
そして、もう1人は中日の平田良介。近年低迷にあえぐチームを懸命に支えてきた不動の右翼手は、減量に着手した2018年にキャリアハイの成績を残し、ゴールデングラブ賞も受賞している。それまでは90キロ台の体重で大柄な選手のイメージもあったが、平野氏は「非常に体をうまく使う」と強調。12年から2年間、中日で外野守備走塁コーチをしていた頃の”教え子”でもあり、目を見張る成長ぶりを振り返る。
「良介は、守備が下手だと自分で思っていました。肩も弱いと思っていて、守備を好きになれていなかった」と当時を回顧。平野氏は、自信を持っていない平田に対し「それは違うよ」と言い、守備の基本を説いたという。捕球から送球につなげる素早い動作や守備位置、さらには投げ方…。二人三脚の成果は、結果と自信という形で表れた。ある試合で、バックホームでアウトにした平田の表情を見て平野氏は安心した。「その時、良介がニタっと笑って。ああ、これは大丈夫かなと思いました。結果が出ないと自信に繋がりませんからね」。
平田だけでなく、教え子たちに名外野手は多い。日本ハムのコーチを務めていた2006年には、新庄剛志(当時の登録名はSHINJO)、森本稀哲、稲葉篤紀が3人揃ってゴールデングラブ賞を受賞。「当時コーチになったばかりの頃、彼らには『欲しいなら獲らせてやるよ』って言ったこともあります」と懐かしむ。
”打てさえすればいい”という安易な外野手論はどうも寂しい。「打つのはせいぜい4打席前後ですが、守るのは9回ずっとです。あの緊張感はやらないと分からない」。現役時代にグラブを枕元に置いて寝ていたという平野氏が、一層語気を強めて言う。「守りが好きになると、本当に野球って面白くなる。こういう打球が来て、ちょっと守備のスタート遅らせたらランナーは本塁まで走るから刺せるかな……なんていろんなことを考えていたら、守っている時間は楽しくて仕方ない」。目には見えにくい魅力こそが、野球を一層奥深くしている。
(小西亮 / Ryo Konishi)