「かたり」で伝えたい野球の魅力とは 山田雅人が尊敬と誇りを持って臨む「挑戦」

1つの語りを作るのに丁寧な取材を重ね、1か月以上の制作期間を費やすという【写真:編集部】
1つの語りを作るのに丁寧な取材を重ね、1か月以上の制作期間を費やすという【写真:編集部】

同じ野球でも10人いればそれぞれの野球が存在「人間を語るんですよ」

 丁寧な仕事は「かたり」のテーマとなった本人はもちろん、家族の心に伝わる。巨人の終身名誉監督を務める長嶋茂雄氏は完成した「長嶋茂雄物語」を大いに喜び、その取材記を書籍化するよう背中を押してくれた。「ノムさん(野村克也氏)は僕のラジオに来てくれたり、津田恒美さんの奥さんは熊本から公演を見に来て下さいました」と、うれしそうに振り返る。

 根底にあるのは「野球が好き」という純粋な想いだ。かつては大の阪神ファンとして知られていたが、「かたり」の取材を重ねるうちに「セ・リーグもパ・リーグも関係ないです。今は野球そのものを応援するようになっています」と話す。

 野球を語る醍醐味はどこにあるのか。「ここがちょっと難しいところで……」と言うと、こう言葉を続けた。

「野球なんですけど、人間なんですね。人間を語るんですよ」

 同じ野球というスポーツではあっても、10人いれば10人それぞれ違った野球との関わり方や捉え方がある。野球の名場面を語りながらも、そこには登場人物一人ひとりの人間味が溢れるドラマが存在している。

「勝った負けたじゃないんですね。プロセスが面白いんです。だから、巨人の原辰徳監督が初めて監督をした時、2003年に解任されました。この時、阪神を率いていた星野仙一監督が甲子園で花束を持っていって労い、阪神ファンが原コールを起こしたんですね。僕はそれが野球だと思っています。残念ながら、日本はユニホームにこだわり過ぎているように思います」

 ご贔屓の球団を応援する気持ちが強くなりすぎて、ライバル球団の凄さを受け入れる余裕がなくなっている。今の日本は、そんな状況にあるのではないかという。「相手チームだって、いいプレーはいいプレー。阪神の選手も、巨人の選手も、パ・リーグの選手も、僕はみんなリスペクトしています。だから、僕は今、野球ファンなんです」と、熱の籠もった口調で続ける。

「150キロの直球を投げて、それを打ち返すってすごいことですよ。投げも投げたり、打ちも打ったりというスポーツだと思うんです。江川対掛布にしても、掛布さんだけ取材しても作れない。江川さんがいかにすごいか。そして、そのすごい球を打った掛布さんがいる。この両方を語らないと」

■8月6日には最新作「川崎憲次郎物語」を披露予定

 野球の魅力を伝える新しい方法として、1つのジャンルを確立しつつある「かたりの世界」だが、この芸を誰かに伝承していくつもりはないという。決まった型や様式美に価値がある伝統芸能の良さとはひと味違った、山田雅人オリジナルの新たな芸だという自負があるからだ。

「これは形だけ継承してもらっても困るし、僕が作ったものですから。以前、桑田真澄さんと大阪でトークショーをした時、すごく感銘を受けてくれて、僕が楽屋に戻ったら色紙が1枚置いてあったんです。『山田雅人さんへ 挑戦 桑田真澄』と書いてありました。新しいことへの挑戦ですよね。桑田さんも『巨人だったけど……』という枠を越えて、新しいことを目指している。野球が好きなんですよね」

 現在は8月6日に東京・町田市のライブハウス「まほろ座」で披露される新作「川崎憲次郎物語」の仕上げに取り組んでいる。また、来春には親交が深いソフトバンク内川聖一を題材に作品を作り上げる予定だ。

「深いですね、野球は」

 テレビ中継やニュースだけでは味わえない、野球の奥深さと魅力を伝えるために、リスペクトとプライドの詰まった渾身の作品を作り上げていく。

【山田雅人「かたりの世界」情報】

生配信「松井秀喜物語」
日程:8月1日(土)午後8時スタート(約90分)
料金:2000円
オンラインチケット詳細:http://katari.peatix.com

野球をかたろう!町田で語ろう!一回表『ヤクルトスワローズ・ナイト』~伝説の日本シリーズMVP・川崎憲次郎物語~(30名限定入場&ライブ配信)
出演:山田雅人(かたり)、川崎憲次郎(スペシャルゲスト)、成瀬英樹(進行)
日程:8月6日(木)午後6時30分開場
場所:まほろ座 MACHIDA(東京都町田市)
チケット詳細:https://tiget.net/events/95764(TIGET チゲット)

(佐藤直子 / Naoko Sato)

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