なぜ鷹は痛恨ドローに終わったか OBが気になった8回の攻撃での“1球”とは?

ソフトバンク・周東佑京(左)と高谷裕亮【写真:藤浦一都】
ソフトバンク・周東佑京(左)と高谷裕亮【写真:藤浦一都】

「まず周東を二塁に置くのがホークスにとって得策ではなかったか」

■オリックス 3-3 ソフトバンク(2日・京セラドーム)

 パ・リーグ首位のソフトバンクは2日、敵地・京セラドームで最下位のオリックスと対戦し、延長10回の末に3-3で引き分けた。9回に守護神の森が2点を失って同点に追いつかれたこの試合。ソフトバンクで13年間コーチを務め、その後オリックスで監督を務めた森脇浩司氏には気になった場面があったという。

 ソフトバンクは1-1の同点で迎えた7回、グラシアルの3号2ランで勝ち越し。続く2点リードの8回にも、先頭の栗原が2番手左腕の飯田優から右前打を放ってチャンスを作った。ここで、工藤公康監督は今季12盗塁の“切り札”周東を代走に送った。続く7番・真砂は空振り三振。8番・高谷の打席では、初球に周東が絶妙のスタートを切ったが、高谷は外角高めの143キロ速球をファウルにしたのだった。この高谷がファウルした1球に森脇氏は注目した。

「周東は前打者の真砂がファウルを打った際に1度スタートを切っていて、相手投手のモーションのタイミングを把握していた。だから高谷の打席でも、早いカウントで走ってくる可能性が非常に高かった。それは、ネクストバッターズサークルで真砂の打席と周東のスタートを見ていた高谷も感じていたはず。ならば、初球は待つか、気配を感じればディレードスイング(空振り)でアシストして、まず周東を二塁に置くのがホークスにとって得策ではなかっただろうか。キャリア十分な高谷の備えには、どういうものがあったのだろう」

 周東は、脚力を買われて侍ジャパンにも名を連ねたほどの男。ベンチからはグリーンライト(基本的に、自由に盗塁を試みる権利)を与えられているはずで、あとは打者との“あ・うん”の呼吸が重要になる。森脇氏は「左打者の高谷には、一塁走者のスタートが見えない。チームによってはこういう場面で『ストレート系なら初球から狙って行け』と指示が出ることもある」とした上で「ソフトバンクには、相手の度肝を抜くような柳田の本塁打、ここ1番での中村晃のしぶとい打撃など、いくつか得点パターンがあるが、代走・周東が盗塁を決めて得点圏に進み、嫌らしく1点を取っていく、というのも勝利の方程式の1つのはず。攻撃の作戦で一番難しいのがウエイティング(「待て」)のサインだが、前向きなウエイティングは効率の良い攻撃を生みます」と語った。

 結局、高谷は三ゴロに倒れ、続く代打・西田も見逃し三振。2点差と3点差では相手に与える心理的なプレッシャーもまた違う。この回、取りに行った追加点を奪えなかったことも響いたか、9回に守護神・森が2失点で追いつかれ、勝ち切れなかった。

 野球ファンにとって、分かりやすく憧れの対象になりやすいのはスピードとパワー。だから、本塁打と単独スチールに注目が集まるが、チームが勝つ確率を考えた場合、走者と打者が絡む効果的なヒットエンドランや、様々な戦術と下準備で相手にプレッシャーを与え得点をもぎ取ること、あるいは失点を防ぐ地味な作業が必要になる。「そういった物もまた、野球の妙味だと思う。残りのペナントレースではこれまで以上に、各チームの戦略、戦術に注目して楽しみたい」と森脇氏は語っていた。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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