阪神・能見にあった“幻の守護神計画” 元投手コーチの藪氏が明かす13年の秘話

あと3つ三振を取れば単独でタイトル獲得も…「もういいです」

「来季も見据えて後半は中継ぎに入りましょう、と本人も納得した上で決めました。ただ、この年、能見投手は巨人にいた杉内(俊哉)投手と奪三振王のタイトルを争っていたんです。チームとしてはシーズン最終戦に、メッセンジャーの2桁勝利と能見投手の奪三振王の両方がかかっていたので、両方獲らせたい。能見投手は2個三振を取れば並んで、3個取れば単独受賞。そこで当初先発予定だったメッセンジャーに代わって、能見投手を先発させました」

「今で言うオープナーのようなものですね」と藪氏。「それで2つ三振を取ってベンチに帰ってくるなり、能見投手は『もういいです。タイでいいです』って言うんですよ。『え、ホンマか? それでいいのか?』と聞いても、『あ、いいです』って。結局、172奪三振でタイトル同時受賞。僕だったら貪欲に単独を狙いますけど、能見投手は気を遣うタイプ。もう最終登板が終わっていた杉内投手に対して、武士の情けじゃないですけど『お互い頑張ったから同率で』という思いがあったんでしょうね」

 そして翌年、メジャーに巣立っていった藤川に代わり、藪氏は能見をクローザーにしようと考えていた。口説き文句も考えていたという。

「僕は藤川投手の後のクローザーは能見投手しかいないと思っていた。彼の性格ですよね。打たれても抑えても代わらない。だから、メッツで422セーブを挙げた左腕ビリー・ワグナーのようなイメージですよね。口説き文句も考えていました。当時、彼はまだ32歳と若かったので『年間40セーブずつ挙げて名球会入りを目指そう。セーブ機会もちゃんと作るから』と言おうと思っていたんです。結局、僕が2軍投手コーチになったので実現しませんでしたけど(笑)。2013年から今年で8年目。年間40セーブだったら320セーブで名球会に入れたのに(笑)」

 能見が16年のキャリアで挙げたセーブは「1」。もし2013年に藪氏が1軍投手コーチのままだったら、この数は何十倍、何百倍に膨れあがっていた可能性がある。

「まだまだできる。僕が42歳まで現役を続けたから、能見投手には43歳くらいまでは続けてほしいですね」

 実績ある左腕獲得に興味を示すチームは「必ずありますよ」と断言する藪氏。果たして、能見は来季に向けてどんな選択をするのか、今から楽しみだ。

(佐藤直子 / Naoko Sato)

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