「追随するなら独自の判断を」 米球界を見た有識者が語るDH制導入の是非

巨人・原辰徳監督【写真:荒川祐史】
巨人・原辰徳監督【写真:荒川祐史】

松井秀喜氏の取材など長く取材、スポーツジャーナリズム専門の江戸川大学・神田洋教授

 先日のセ・リーグ理事会で巨人から提案されたDH(指名打者)制の来季暫定導入は、他球団の賛同を得られず事実上の見送りとなったが、議論は選手、ファンの間でくすぶっている。昨年、MLBでは選手の疲労を考慮して、両リーグでDH制を採用するなど柔軟な考えを見せている。長く米国スポーツに携わっている江戸川大学の神田洋教授は米国を参考にしながら「日本独自の判断を」と議論を推奨した。

 神田教授は江戸川大学ではメディアコミュニケーション学部で専門はスポーツジャーナリズムやスポーツ史。前職では共同通信社の記者として主に野球を担当。NPB、MLBを取材した経験を持つ。松井秀喜氏が巨人からヤンキースに移籍した2003年から09年、11年から15年はニューヨーク支局で大リーグを取材。他にも様々な切り口から社会現象について学んできた。

 特に長く取材した松井氏は晩年、DHとしてプレーする機会が多かった。DHがあったからこそ、輝かしいプレーが見れた部分もある。ワールドシリーズを制覇した2009年もそうだった。強打のヤンキース打線を支えていた姿も見ていた。

「DH制反対論はノスタルジーだと、僕は思います」。神田教授はそう言い切る。

 野球というスポーツが「9人対9人」でスタートしたのは確かだが、いまや米国の学生野球はほとんどがDH制。日本の大学野球も、数多くのリーグが存在する中で、DH制を導入していないのは、とりわけ長い歴史を持つ東京六大学野球連盟と関西学生野球連盟だけだ。

 ここでのノスタルジーは自分たちが最初に覚えた頃の「本来の野球」への懐かしさ、こだわりといったところだ。そこでは、今、野球が置かれている状況、環境は考慮されていない、というニュアンス。「古い慣習」と捉えてもいいかもしれない。

 巨人も主張したように、DH制のないリーグでは、投・打・走の全てを要求される投手の負担が大きい。走者が塁上にいない状況などで投手が打席に入る場合、投手は打席の一番後ろに立って気のない空振りをする、もしくは漫然とストライクを3球見送るといったケースがよくある。神田教授は「『プロスポーツの一コマに、ああいうのは“あり”なの?』という疑問が残る。また、セ・リーグでは過去、打撃の才能を持ちながら、守るポジションがないという理由で消えていった選手がたくさんいたはず。そういうことを考え合わせ、ノスタルジーではない、実効性のある議論をするべきだと思う」と述べる。

 さらに神田教授は「巨人が日本シリーズに勝てない理由としてDH制の有無を挙げるならば、野球ファンの心理として『言い訳するなら見せてくれよ。セ・リーグにDH制を導入して、0勝4敗の日本シリーズが1勝4敗になるのか、2勝4敗になるのか、あるいは日本一になれるのか、実際に証明してくれ』というのがあると思う」とも付け加えた。

投手が「本気で打つことができないレベルになった」

RECOMMEND

KEYWORD

CATEGORY