「不幸を見せる番組ではない」人気戦力外ドキュメントが視聴者に共感される理由

戦いが終わった後、男の一言は重い

 時代とともに変化していく戦力外通告の場面。文化として浸透していった。約20年、クビになった男をカメラが追うという同じような構図でも時代背景が変われば、それは新しい絵図となって視聴者に届く。

「今年はコロナもあって、給料も下がって、ボーナスも減って…という心理で見る視聴者もいると思います。うちはそうではないと思いながら見る方もいる。人の不幸は蜜の味ではないですが、そういう視点で見る人がいることも否定はできません。でも、これは不幸を見せる番組では絶対にない。この番組は努力しても敗れ去った人たちの何かに光を当てるんだと始まった企画ですから」

 菊野氏は漫画家・水島新司氏の「野球狂の詩」で野球には努力しても勝てない要素があることを学んだ。作家・沢木耕太郎氏の「敗れざる者たち」、永沢光雄氏のノンフィクション「強くて淋しい男たち」にも触れ、散っていく様に焦点を当て、もう一つの野球界のドラマを届けたいと思い、これまでもドキュメンタリーを作ってきた。

「クビになるのは辛いことですし、自分としては見せたくないところを全国にさらけ出すことになるわけです。そうしたことを受け入れて(出演をしてもらい)その戦いが終わった後に、選手が“何を言うのか”。それは家族に向けてなのかもしれないし、インタビューに答えるのかもしれない。ただ、戦い終わった後の男の一言は重いんです」

 その言葉が何なのかが知りたい。それを届けることが責務だった。

 2003年の大越氏の言葉に始まり、戦力外ではないものの今年、トライアウトに出場した元日本ハムの48歳、新庄剛志氏が「歳と時代には勝てない、というけど、俺は歳には勝った!」とTBSの密着カメラの前で発した。菊野氏にはそこに人間味を感じた。

 これまでの「戦力外通告」の放送の中でも、選手が発する言葉は全員、違う。表情も異なる。そして、時代背景も変わっている。17回目となっても、新しさを生み出しているのは人々が置かれている状況が違い、戦い抜いた後に生まれる言葉があるから。そこへの着目点が番組の存続、人気のカギとなっていた。

◇菊野 浩樹(きくの・ひろき) 1968年5月14日生まれ、東京大学教育学部卒。1992年TBS入局。「ZONE」「プロ野球戦力外通告~クビを宣告された男達」「バース・デイ」「サワコの朝」「ライバル伝説…光と影」などを担当。現在はライブエンタテインメント局長。

(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)

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