吉野家のバイト面接の日に訪れた“転機” 元燕・今浪氏が語る「人の賞味期限」とは?
目標を決め、考え抜くことで行動が効率化される
突き詰めたことで、まさかの道が開けた。自分への「これで最後」というけじめとして、プロ志望届を出していた。するとドラフト前日に「明日指名しますから」という連絡が届いたのだ。ドラフトの日、吉野家のアルバイト面接を受けに行くはずだったが、運命は変わった。まさかの指名に、取材に訪れた報道陣から「今浪さんはいますか」と聞かれた。「僕です」。自ら会見場へ案内した。
運命が変わった理由ははっきりしている。「人の賞味期限は決まっているんです。スポーツに携わっている時間は限られていますし、さらに、真剣にプロやトップの世界を目指せる時間はもっと少ない。僕はその中で漠然と過ごしていたのが、明確に考えられるようになった」。思いを形にするために必要なのは、やみくもな練習ではないのだ。
野球“だけ”やっている期間は成績を出せず、毎日学校に行っていたら成績が上がるようになった。なぜなのだろうか。「授業の間にも打撃をどうしたいのかイメージするようになるし、野球をやっている時に授業のことを考えるようになる。脳が活性化しますし、野球に飢えてくるんですよ」。時間や場所が制限されることで、練習も勉強も効率よくやれるようになった。だからプロ野球選手になっても「考えることは辞めなかったですね。バッティング、守備、野球のことをずっと考えていた」。小柄な体格をものともせず、2球団で渋い活躍を見せ、リーグ優勝にも貢献した。
野球人生で、何人もの“凄いヤツ”に出会った。そして、考えなければ才能もしぼんでいくことを知った。「誰がどう見ても素晴らしい選手って、小さなコミュニティに1人、2人といるじゃないですか。そんな選手が地域に、都道府県にと枠が広がっても、まだ「俺、凄いんだ」と思っていると、乱暴な言葉で言えば『カスみたいな』選手になっちゃうんですよ。成長できないまま終わるんです。中には本当にすごい人もいますよ、でも9割8分の人には、考えることが必要だと思うんです」。今浪氏の実体験からの言葉だ。中学生のとき、ある球団のスカウトがプレーを見に来たことがあるという。のちに再会したとき「お前、中学校の時が一番すごかったぞ」と言われたのだ。
大学4年生という節目に、野球をやめると決めてからの成功。今、振り返れば「ゴールがあるから頑張れる自分がいた」と説明できる。そこからの教訓は、考えることと、目標設定の重要性だ。今浪氏は2013年、日本ハムに入団してきた大谷翔平投手(現エンゼルス)と1年間ともにプレーした。自分がどうなりたいかとイメージし、そこへひたむきに努力する姿は、今と全く変わらないという。「もっと、もっとと考えている選手と言えば、大谷翔平が典型じゃないですか。誰もが大谷翔平にはなれないけど、近づくことはできるんです」。
◯今浪隆博(いまなみ・たかひろ)1984年7月6日、北九州市生まれ。小学1年でソフトボールを始め、中学入学とともに硬式野球へ。京都・平安高に進み、2年夏(2001年)と3年春(2002年)の甲子園に出場した。明大では4年春に遊撃の定位置をつかみ、秋季リーグ戦は打率.361でリーグ2位。その秋の大学・社会人ドラフトで7巡目指名を受け日本ハム入りし、2年目の2008年に1軍初出場を果たす。14年開幕直後に交換トレードでヤクルトへ移籍し、17年限りで引退。通算405試合に出場し打率.261。現役終盤に甲状腺機能低下症を患い苦しんだ経験から、現在は「スポーツメンタルコーチ」という肩書で活動している。
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(Full-Count編集部)