長嶋茂雄さんにも信頼された名実況アナ深澤弘さん “生き証人”がみた昭和の球界舞台裏

放送席の江本孟紀さん(左)と深澤弘アナウンサー(1982年5月21日)【写真提供:ニッポン放送】
放送席の江本孟紀さん(左)と深澤弘アナウンサー(1982年5月21日)【写真提供:ニッポン放送】

若き日の衣笠祥雄さん、深夜の“パンツ一丁の素振り”を見守ったことも

 深澤さんは元大洋、ヤクルト監督で昨年4月に死去した関根潤三さんとも、昵懇の間柄だった。関根さんが広島の打撃コーチを務めた1970年、単身赴任で住み込んでいた球団寮を訪ねた時のエピソードは秀逸だ。

 発展途上の若手選手たちの素振りを、午後10時から1時間ほど関根さんと一緒に見守ったが、姿を見せなかった者が1人いた。後に2215試合連続出場の日本記録を樹立することになる衣笠祥雄さん(2018年4月死去)だ。午前2時頃、酒を飲んで戻ってきた衣笠さんに、暗闇の中から関根さんが突然「サチ、(素振りを)やろう」と声をかけた。肝をつぶした衣笠さんはそれから1時間、汗だくになり、最後は上半身裸、パンツ一丁になって素振りをこなしたという。その姿を、深澤さんは関根さんの隣で目に焼き付けた。

 1993年にニッポン放送を退社しフリーになった後は、毎年1月の「NPB新人選手研修会」で「話し方、インタビューへの対応」の実習を長年担当。専門学校やアナウンス教室の講師として後進の指導にもあたった。

 放送ブースにとどまらず、選手の懐に飛び込み、取材者としての力量も超一流。昭和、平成、令和を通じ、プロ野球界の表も裏も知り尽くす“生き証人”だったと思う。もっともっとお話をうかがいたかった。眼鏡の奥の優しい眼差しが思い出されて、切ない。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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