「自然に体が」脳腫瘍から復活…元阪神外野手が振り返る“奇跡のバックホーム”

平田2軍監督は号泣、そして鳥谷から掛けられた言葉

 最初の打者のソフトバンク・市川友也捕手が放った打球は、横田さんの頭上を越えるセンターオーバーの同点二塁打。必死にボールを拾い、中継の内野手へ返球する。ここで二塁走者として代走・水谷瞬外野手が起用された。

 続く塚田正義外野手の打球も、痛烈なライナーとなってセンター正面を襲う。ただでさえ中堅手にとって正面のライナーは、距離感をつかみにくい。この時の横田さんの状態では、エラーするか、打った瞬間に大事を取って後ろへ下がるはずの打球だった。ところが、「まるで誰かに押されたかのように背中が前へ出ました」。横田さんは両方の手のひらを前へかざして回想する。

 二塁走者の水谷は三塁を蹴って本塁へ突入。ワンバウンドでボールを捕った横田さんは思い切り左腕を振り、絶妙のノーバウンド送球となって捕手のミットに吸い込まれていった。タッチアウト。「ファンの皆さんが物凄く喜んでくれていて、内野手の皆さんがガッツポーズしていて、それでアウトだと気づきました」と横田さん。「病気になってからノーバウンド送球はしたことがなかった。これは自分の力ではないと感じました。自然に体が動いた、本当に不思議な瞬間でした」と今も夢見心地で振り返る。

 ベンチで出迎えた平田2軍監督の頬は涙で濡れていた。興奮したままベンチ裏のロッカールームへ向かった横田さんの背中に、球場を訪れていた1軍選手の鳥谷敬内野手(翌2020年からロッテへ移籍、今季限りで現役引退)が手を置いて語りかけた。「野球の神様は、本当にいるな」。その瞬間、横田さんの両目から「ぼわーっと」涙があふれてきた。「絶対にグラウンドに戻るという目標を、見失わずにやってきてよかったと思いました」

 あれから2年が過ぎた。現在は故郷の鹿児島県を拠点に、リモートを含めた講演活動、YouTubeなどを通して自身の貴重な体験を語っている。児童養護施設で講演した後には、子どもたちから「僕には目標が何もなかったのですが、講演を聞いて自分にできることは何かを考えられるようになりました」「小さい目標を立てながら頑張っていけそうです」といった手紙が届いた。「目標を立てて入院生活を過ごした経験は、決して無駄ではなかった」と横田さん。“奇跡の男”は穏やかな笑顔を浮かべている。

【実際の写真】2017年、抗がん剤と放射線による治療など壮絶だった闘病生活

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