「やらないと試合に出さない」は一切なし… 筒香嘉智が語る日米指導者の“違い”

ブレーブスのアルビーズを指導するワシントン三塁コーチ【写真:Getty Images】
ブレーブスのアルビーズを指導するワシントン三塁コーチ【写真:Getty Images】

コーチと意見が食い違っても「尊重してくれるし、否定されることはない」

 日本では指導者と選手の間には主従関係のようなパワーバランスが生まれることが多いが、メジャーでは対等に近い。ただ「完璧に対等かと言えば対等ではないんです」と筒香は続ける。

「対等ではないし、敬意がない近さでもない。お互いに敬意を持っているから生まれる近さで、それぞれの役割を尊重しているんですよね。正しい表現か分かりませんが、ちゃんと会話ができるんです」

 想像とは違い、メジャーにもスキルや考え方などを細かく指導し、実践させるのが好きな指導者もいる。だが、日本にいる同様の指導者と決定的に違うのは、聞く耳を持っている、つまり会話が成立する点だ。

「意見の違うコーチもいますが、選手がやることを尊重してくれるし、それを否定することはありません。『どうしてこういうバッティングをしているの?』とあれこれ質問は受けても、『ダメだ』『やるな』とは言われない。とりあえずやってみて、上手くいかなかったら考える。選手から『この感覚がよくない』『ここが気になる』と相談を受ければ、『じゃあこうしてみよう』と提示する形です。『これをやれ。やらないと試合には出さない』という一方的なアプローチは一切ありません」

 ここ数年はオフになると、子どもたちを取り巻く野球環境の在り方に提言を重ねているが、米国での2年を経て何よりも願うのは、子どもたちの言葉に耳を傾ける大人が増えることだ。

「昔から続くいい部分もあれば、変わらないといけない部分もある。古いものが悪い、新しいものがいい、というのではなく、指導者は学ぶ姿勢を忘れてはいけないし、子どもたちと会話できるように情報をアップデートしていかないと心には響かない。正解の形はないと思いますが、自分たちが発する言葉を真剣に聞く子どもたちがいること、子どもたちの声に耳を傾けることを忘れてはいけないと思います」

 自ら積極的に情報をアップデートし続けているから、決してできないことではないと知っている。何よりも互いに敬意を抱いていればできるはず。指導者と選手が互いを尊敬しあう、そんないい関係性が日本でも広まることを願ってやまない。

(佐藤直子 / Naoko Sato)

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