新庄ビッグボスの異例の“ヒットエンドラン” 得点を奪うこと以上の狙いとは?

甲斐の一瞬の動き見逃さず「失敗したけど、成功。面白いと思った」

 この時は畳み掛けるように、直後にまた初球エンドランを仕掛けた。一、三塁で打席には石井一成内野手。結果は外角低めフォークを空振りし、三塁走者の近藤はアウトになった。指揮官は球種までは想定していた。「フォークはあるんですよ。スクイズを警戒されているから。(フォークボールはバントを)やりづらい、ワンバウンドでもいい。それが外しと一緒。でも、ちょっと浮いてきてくれないかなと思っていたんですけど。あれは(バットに)当てられない」と振り返った。

 それでも単なる失敗で終わらせず、前向きに捉えるのが、いかにもビッグボスらしい。甲斐が近藤を追いかける前に一瞬、二塁へ送球しかけたことを見逃さなかった。「キャッチャーはサードが走ると思っていなかったと思う。セカンドに投げたら、(本盗成功で)すごい作戦成功みたいになる。びっくりしたと思う。(本塁に走って来る走者が)おるやん! って。これも作戦の1つだなと思って、メモっておきました。失敗したけど、成功。面白いと思った」と笑った。

「(あの場面で)初球にエンドランって思わんよね。ちょっと怒ってるんじゃないかな、甲斐君。はー? って。でも、何して来るのかなという面白さ、ないですか?」と報道陣に問いかけた新庄監督。22日の試合前には「相手のベンチに何をしてくるんだろう? と思わせるのも作戦の1つ」とも語っていた。

 どうやら、ビッグボスが出すヒットエンドランのサインには、打者の打撃を修正する側面と、相手をかく乱する種まきの側面があるようだ。

 前者は、21日の楽天戦で清宮幸太郎内野手に出したエンドランもそうだった。1点を追う5回1死一、三塁、カウント1-1で一塁走者がスタートを切った。結果は右翼方向へのライナー性のファウル。「(上体が)ちょっと前に行きながら(バットが)遠回り、後ろに残しすぎていたので、修正しようと思った。ボールをしっかり見て、集中していいファウル打ったでしょ。あれがちょっと真ん中気味だったら、もしかしたら(スタンドに)入っているか、フェン直か。本人は“ファウルにしてしまった”と思っていると思う」。身振り手振りを交えて説明する新庄監督は、まるで自分が打った惜しい打球を振り返るような表情だった。

 昨年11月の監督就任会見では「プロ野球を変えたい」と力強く語った。セオリーにない作戦を実行して、失敗すれば批判されることは百も承知のはず。それでもチャレンジする“ビッグボスの考え”をもっともっと知りたい。

(石川加奈子 / Kanako Ishikawa)

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