戦力外通告から社会人野球の頂点へ…元中日の“守備の人”が「見返したかった」こと

ENEOS補強選手の武田健吾【写真:羽鳥慶太】
ENEOS補強選手の武田健吾【写真:羽鳥慶太】

求められた“元プロ”ならではの経験値…2ストライクから修正し適時打

 7月下旬に東京ドームで行われた社会人野球の最高峰・都市対抗野球は、ENEOS(横浜市)の9年ぶり、史上最多となる12度目の優勝で幕を閉じた。ここで豊富な経験を生かした働きを見せたのが、オリックスと中日でプロ9年間の経験をもつ武田健吾外野手だ。まさかの戦力外通告から社会人野球の頂点まで上り詰めた武田には、ある“レッテル”をはがしたいとの思いがあった。

 都市対抗野球には「補強選手」という制度がある。東京ドームでの本戦に進む際、同じ地区で予選を戦ったチームから選手を加えることができるのだ。ついさっきまでライバルだったチームに加わって活躍するには野球の実力と、プレッシャーに負けないタフな精神力が必要になる。

 武田は中日でプレーした昨季、ほぼ1年間1軍に帯同したにも関わらず、オフに戦力外通告を受けている。プロ他球団からの誘いはなく、社会人野球の三菱重工East入り。ただ自チームでの都市対抗出場を果たせず、ENEOSに補強選手として加わった。7月22日に行われた1回戦、ENEOSは西濃運輸を6ー2で下した。その中で武田は「これぞ補強」という仕事をやってのけた。

 この試合、ENEOSは初回に「4番・DH」の山崎錬内野手に本塁打が出て幸先良く3点を先制したものの、4回に1点差に迫られた。直後5回の攻撃、2死満塁で打席には「5番・中堅」で先発した武田。補強選手としての“胆力”が試される場面だった。

 ところが期待とは裏腹に、全くタイミングが合っていないかのような空振りを繰り返した。あっという間に2ストライクと追い込まれたが「三振が一番ダメなので、とにかくポイントを近くして粘って食らいつこうと思った」と振り返るように、ここから粘った。

 左翼方向へ引っ張っての大ファウルを2球続け、少しずつボールが見えてきた。打ちたい気持ちが強いあまり、体が前に突っ込んでいることにも気づけた。「指2本分余して」握りなおしたバットを振り抜くと、打球は三遊間をゴロで抜けた。2人の走者が生還する適時打となり、一塁ベース上で何度も、何度も左腕を突き上げた。

「どうせ打てないだろうと思われてきたので…」守備の人にかかったバットの期待

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