伝えていきたい唯一無二の経験 田澤純一が日本球界でプレーすることの意味
田澤加入に戦力アップ期待も「それ以降も当然、視野に入れています」
田澤が米球界を離れ、日本に戻ってきたのが2020年。思うような投球ができずに苦しんでいた右腕は、その数年前から筑波大学との共同プロジェクトを通じて体を作り直し、確かな手応えを感じていた。大久保監督からENEOS復帰の誘いも受けていたが、「まだプロでやりたい気持ちがあった」「わがままを言って海外に挑戦させてもらっていた」。その気持ちに一段落ついたのが今年6月、「メキシコで思うようにいかなくて帰ってきた時、少しずつ気持ちが変わってきたのかなと思います」。そして最近、心を決めた。
7月の都市対抗野球で9年ぶり12度目の優勝を飾ったENEOSは、10月30日に開幕する社会人野球日本選手権で3度目の優勝を狙う。田澤も貴重な戦力として活躍が期待されるが、大久保監督はより長期的かつ広義的な“戦力補強”としてベテラン右腕を見ているようだ。
「当然ワールドチャンピオンになった社会人選手はいないと思いますし、そういう経験値(は貴重)。歩んできた社会人以降の道は、なかなか大変なことにチャレンジし続けてきています。当然いろんな声を含めて、そういうところもすべて受け入れながら挑戦し続けている。本人は意外とネガティブな部分も多いんですけど(笑)、メンタル的に前向きなところ、野球に対して挑戦する姿は良き見本。彼の一つ一つの行動であったり言動であったりが全て、勉強になることだと思います。今はプレーヤーとして頑張ってもらいたいし、戦力になってほしいという想いはありますが、それ以降も当然、視野に入れています」
田澤自身はあまり先は見過ぎずに「ついていくことで必死」と笑うが、「帰ってきたからには、海外でしてきたことを選手たちに伝えて、少しでもチームが強くなればいいと思います」とも話す。シャイで口下手なタイプだが、ここまで歩んできた他に類を見ない野球人生は雄弁だ。現役としてプレーしながら、唯一無二の経験を未来へどう繋いでいくのか。田澤の新たな挑戦が始まる。
(佐藤直子 / Naoko Sato)