ルースの“諦め”を続ける大谷翔平の真価 米識者が推し量る二刀流への「覚悟」

ニューヨーク・タイムズ紙の元ヤンキース番記者、タイラー・ケプナー氏【写真:本人提供】
ニューヨーク・タイムズ紙の元ヤンキース番記者、タイラー・ケプナー氏【写真:本人提供】

ケプナー氏が読み取る大谷の覚悟、MVP争いに一石を投じる視点とは…

「『スプリット(=フォーク)編』で絶対に選びます。かなりの質ですから。スギシタから受け継がれてきた日本人投手たちのスプリットへの想いは、地道に重ねた取材で理解しているつもりですが、オオタニがそこをどう感じるのか、どのように習得して磨きをかけてきたのかを知ることができれば、私は彼が投げるその球にもっともっと魅了されるはずです」

“スギシタ”とは「フォークの神様」の異名を持つ杉下茂氏を指す。2002年にメッツを担当したケプナー氏は、ロッテを指揮した経験を持つボビー・バレンタイン監督から聞いた杉下茂と野茂英雄評を参考にしつつ、オンタイムで取材をした佐々木主浩、上原浩二、田澤純一、長谷川滋利ら大リーグで活躍した日本人投手たちの話を咀嚼。さらに、松井秀喜や西武でプレーし、後に米球界に復帰したタイ・バンバークレオら打者目線に照らして、日本人投手が“魔球”を投げることの意味を潜考する。ほどよく盛り込まれた逸話や秘話は、プロ野球ファンにとっても侮り難い説得力を備えている。

 ケプナー氏が「投手・大谷」の背後に光を射し入れた。

「2018年のオフに右肘の靭帯修復手術を受けたオオタニは、2020年に本格的な二刀流で本領を発揮し始めましたが、正直、それまでは職業的生命を案じていました。しかし、その艱難(かんなん)が二刀流への想いと信念を押し通す覚悟をより強くさせたのではないでしょうか」

 当書の表紙には、三振を表す大きな「K」の文字が浮かぶ。その中には名投手たちの姿がびっしりと詰まっている。ページを開くと、印象的な言葉が目に飛び込んできた。

「握りと持ち方を微妙に調節すれば、単なるボールが偉大な打者をも封じる凶器に変わる」

 読み手をあれよあれよという間に、マウンド近くへと連れ出してしまう1冊を世に出したケプナー氏は話の最後にこんな言葉を用意していた――。

「1人のホームラン打者を探し出すことより真のエースを1人探し出すことの方がずっと難しい」

 その声は、激化する大谷翔平とアーロン・ジャッジのMVPレースを射抜くかのように余韻を残した。

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(木崎英夫 / Hideo Kizaki)

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